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【STORY】 #松崎快 「“清水の頭脳”として。選手キャリアを懸けて臨んだ1シーズン」

日々の競争、陰での努力、悩み、葛藤……選手一人ひとりの物語を追ったコンテンツ【STORY】。今回は松崎快選手編です。

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12月29日配信/取材・文=平柳麻衣


「来年ダメだったらもう引退するつもりでいるので」


今から1年前のこと。2024シーズン、J2優勝・J1昇格を果たしたエスパルスは、最終節翌日の解団式をもってチーム活動を終了した。長期のオフシーズン中は、各々が自分のペースで身体を動かす時間を設けるなか、毎日のように三保クラブハウスを訪れる松崎快の姿があった。


J2を戦っていた2024シーズン中も、もちろん目の前の対戦相手と向き合いながらも、「エスパルスは昇格できるチーム。だからJ1に上がっても戦えるベースを作らないと」と言い、松崎の目線は常に2025年以降を見据え、着々と準備を進めてきた。


J1に向けた準備の内容も、具体的な目標も、松崎はメディアの前で多くを語ろうとしてこなかった。だが、心の中では明確に道筋を思い描いていた。


「スタッフとか本当に数人にしか言ってないんですけど、俺、ベストイレブンを獲りに行こうとしています。ずっと目標にしてきた海外挑戦が現実的ではなくなった今、そういうところで結果を残したい。じゃあどうしたらいいのかと考えて、例えば2024年のJ1を見てみると、当然上位チームから選ばれている選手ばかりなので、まずはチームを勝たせることが一番の評価になる。一方で、マテウス サヴィオ(当時柏/17位)のように下位でも個人でインパクトを残して選ばれた選手もいる。ただ、俺はチームを勝たせることが個人の評価にもつながると思うので、チームの勝利プラス個人ではゴールとアシスト合わせて『20』を目指したいと思います」


しなやかさと強さの両立を目指して

東洋大学を卒業後、水戸でプロキャリアをスタートさせた松崎は、自身初のJ1挑戦となった浦和移籍後、「練習では良いパフォーマンスを出せても、それを試合で出すことができない」という課題に直面した。安定して好パフォーマンスを出すため、松崎は人間の身体や意識の仕組み、姿勢や呼吸法など、あらゆる面から自身の身体をじっくりと見つめ直し、自分に最も合った調整方法を探り続けた。


「J1でやるとなったらフィジカルの強さは絶対必要なんですけど、じゃあ筋トレをやってフィジカルを上げようと取り組んでも、浦和の時に上手くいかなかった過去がある。体幹に関しては大学生の頃からいろいろ緻密に考えてきたけど、一瞬の当たりの強さがあってもその後走れなかったら意味がないし、元々の自分の武器である身体のしなやかさや柔らかさを残しながら、キックにしっかりパワーを乗せたり、プレーに力強さを出すことを両立するためには、ちゃんと順序立てて地道に取り組んでいく必要があると思いました。


去年(2024年)はまず身体の操作性を上げるために関節の可動域を広げるところから始めました。関節の可動域を広げ始めると、筋肉が引き伸ばされて少し動きにくくなるというか、弱くなるのは分かっていて、去年なかなかプレーに力が出なかったのはこのことからです。でも、それも計画性を持ってのことだったのでシーズンをとおして取り組み続けて、シーズンオフに入ったあたりから強さの面もプラスしていきました。強さが乗ってくればパンチのあるシュートも打てますし、プレースピードも上がります。今は柔らかさと強さのバランスがちょうど良い感じになってきたと思います」


松崎の取り組みは、単純にフィジカル面だけでなく、より身体の土台となる部分にまで及ぶ。


「日常の整いが全ての整いなので。武学籠球さんというバスケと武学を掛け合わせたことをやっている方がいるんですけど、2023年のシーズンオフにその人に会いに行って学ばせていただきました。例えば座る姿勢もその一つ。何気なく座っているか、姿勢を意識して座っているかでも全然違います。立っている時の姿勢もそうで、みんなそれぞれ自分に合った楽な立ち姿勢があって、余計な力を使わずに立っていないと、その次の動作にも遅れが出ます。あとは、『全観』と言って対象物の全体を観るか、一部に集中してしまうかの違いについても学びましたし、メンタルの整え方もいろいろ学ぶと面白いですよ。


例えば部活動で『県大会でベスト4に入る』という目標があったとして、その目的は何のため?と考えたことはありますか。目的は抽象的で壮大なもので良くて、例えば俺の場合は『自分のプレーを観た人たち全員が幸せになるためにサッカーをします』という目的があって、その過程に『ベストイレブンに入る』とか、具体的な目標が何個かあるというイメージです。目的がブレなければ目標は都度、軌道修正しても良いと思います。


あとは『確定未来』という考え方もあって、例えば自分が調子を落としてしまった時、『2025年何月何日まで毎日ケアを行い、良い状態で試合に臨みます』とはっきり意識する。なりたい未来を引き寄せるんです。その考え方を知ってからは、自分の調子が落ちてきた時には、“心技体”ではなく心と意志と体の“心意体”の3つの面から自分自身を見つめ直して、生活習慣もしっかり整えることで調子を戻すことができます。まぁ、こんな考え方を持っている選手もいるんだ、ぐらいに思ってもらえればいいです」


ホーム開幕戦となった新潟戦で後半開始から出場した松崎は、まさにキックに力が乗った強烈なシュートを叩き込んで今季初ゴールをマーク。実はその日の試合後にも、三保クラブハウスに戻って一人、トレーニングを積んでいた。


「一つ結果で証明できたのは良かったですけど、ここからがスタートなので。今日は45分しか試合に出なかったですし、次節に向けて少しでも準備したくて。全然満足してないし、まだまだやることあるじゃんって思えたことが自分としてはちょっと嬉しかったです」


その後も第11節までに4得点を挙げ、昨季の松崎と比較し「覚醒した」と表現されることも増えた。しかし松崎は「覚醒と言われるのは嫌」だと言い切った。


「“覚醒”と言ってしまうと、変化の過程を全部なかったことにされているような気がしてしまうんですよね。自分はしっかり積み上げてきたという自負があるから今、自信を持ってプレーすることができています」


「いろいろなものが見えすぎる」ゆえの苦悩

しかし松崎のゴール数は結局、シーズン終了まで「4」から更新されることはなかった。とくにシーズン中盤にかけてはチームとしても勝てない試合が増えていき、松崎は「難しい」、「どうしたらいいのか分からない」といった言葉を度々こぼしていた。


ただ、「シーズン序盤の頃のようなキレがなくなった」という見方をされる中で、松崎が思い悩んでいたのはその点ではなかった。


「シーズン中でも成長はしないとダメなので、フィジカル要素を取り入れて、そこの調整に失敗して身体が重くなってしまった試合があったのは事実ですけど、全体的に見て自分の調子が落ちたということは全くなかったです。自分が個人でできることはもうある程度分かっていて、正直いつでも出せる状態にはありました。例えばアウェイの広島戦なんかも、俺が個人で佐々木翔選手を剥がすシーンは何度か作れたと思うんですけど、結局0-0で、じゃあ何がダメなのか、何を変えないといけないのかをずっと模索していました。


一番は体力的に厳しくなると分かっていた夏場のゲームコントロールの部分で、ゲームを落ち着かせながら、後ろを信頼して次の出先のポジションを取っていたんですけど、そこにボールが入ってこなかったりして、セットしたところでその後の攻撃が思い通りにいかないというのは難しかったですね。でも、前の選手がしっかりゲームマネジメントをしてあげないと後ろが耐えきれずに失点するケースが出てきてしまうというのは分かりきっていたことだったので、そこは『自分がやらないと』という意識でいましたし、ずっと悩みの種でした」


Jリーグが公表しているデータで今シーズンのエスパルスはドリブル成功率がJ1で最も低い「43.9%」となっている。「(矢島)慎也くんとも話したけど、それって無駄に突っ込んでるだけじゃない?って。上手くいった時には見栄えはいいけど、相手からしたら大体はすぐにマイボールに戻ってくるというわけで。自分としては、俺が何回ボールを触ったかよりも、どれだけ相手が嫌がる位置でボールに関わったかを大事にしたかったし、綺麗なターンで2、3人剥がすのもいいけど、それよりも立ち位置や身体の動きで解決できることはあるなと思っていました。それにはチームメイトとの共通理解が必要になるんですけど」

例えばアウェイ川崎F戦の髙橋利樹へのアシストは、松崎がパスを受ける前の「(山原)怜音だったら通してくれる」という信頼関係のもとに生まれたプレーだったという。「選手各々の特徴も含めて、誰がどこで持ったらこうなるかな、というのは常に考えながらプレーしていました」。一方で、俯瞰してゲーム全体を見渡せるという自身の特徴が、「いろいろなものが見えすぎるがゆえに、自分のプレーに支障が出る」という一面もあったという。


「自分的にはどうしてもチームの足りないところがすごく見えるので、そこを何とかしようと考えていると自分のプレーに集中できない、ということがよくありました。シーズン終盤は気候的にも涼しくなってきたこともあってまたチーム全体が前から行き続けられるようになったので、自分がフィニッシャーになることもより意識してはいたんですけど、ここからという時間帯で途中交代になってしまうことが多くて、それは出ている時間帯でチャンスをモノにできなかった自分の実力不足だと受け止めています。


この一年、チームスポーツの中で個人ができる限界を知った一方で、俺の考えが全部正解だとも思わないし、俺だって凝り固まった考え方をしてしまっている部分も絶対にあると思う。そこはいずれ指導者になることを考えても、常にアップデートしていく必要があると思っています」


悔しさと手応えを、来季へ

第35節東京V戦の勝利により、チームの最低目標であったJ1残留が決まった。その後、松崎はこんな展望を口にしていた。


「今の育成年代がどんなことをやっているのか、ちょっと見てみたいなと思っていて。俺がどれだけサッカーを観ていると言っても、実際に指導の現場にいる人たちのことは分からないから。ユースに限らずジュニアユース、ジュニアも含めていろいろな年代の指導方法を見せてもらいたいな、なんて考えています」


ふと、「今年ダメだったらもう引退する」というシーズン当初の明言が脳裏に蘇ってきた。では……?


「今、めっちゃ走り込みやってるんですよ。来季は(小泉)佳穂(柏)くんぐらい走れるようになりたいなって。佳穂くんは1試合で12.7キロとか走るんですけど、俺の走行距離は90分に換算しても11キロ台だと思うので。もちろん走るだけが正解じゃないし、どこでどう走るかが大事ではありますけど」


今季残した数字は4ゴール(チーム内3位)、5アシスト(チーム内1位)。掲げていた目標には届かなかったものの、それもまた来季へのエネルギーになっている。


「選手として完全に何もできなかったシーズンではなかったですし、優秀選手賞にかすりもしなかったのは悔しいですけど、実際に対戦したチームの選手や監督から『良かったよ』と言ってもらうこともありました。たくさん悩むこともありましたけど、それも試合に出られたからこそ感じたもの。自分としても浦和時代のJ1とは違い、ある程度の手応えを感じられたシーズンになりました。ここ(優秀選手)に入るにはまだまだだと分かったので、現役選手として、また目指していきたい。そういう気持ちが芽生えてなければ、今からまた走り込みなんてやらないですよ」


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チームが勝てなかったとき。自身が思いどおりのパフォーマンスを出せなかったとき。試合後、松崎はこぼれそうになる涙をこらえながら、落胆するスタンドをじっと見つめている。悔しい時に涙が溢れる負けず嫌いな一面は、サッカーを始めた幼少期の頃から変わらない。


プロになった今は、「自分のプレーを観た人々を幸せにする」というより大きな目的のために、日常のすべてをサッカーに捧げている。高卒ではプロになれず、大卒後もJ2からスタートした、「決してエリートではない」キャリアを歩んできたからこそ、弛まぬ努力を続けることができる。


2026年、エスパルスで3年目のシーズンに突入する。「クラブや設備も、スタジアムも街も、気に入っているので」。サッカーが根付く街、静岡・清水が、松崎の中で居心地の良い場所になってきているのは確かなようだ。サッカー愛に溢れる人々とともに歩み、新しい景色を切り拓く松崎の挑戦が、また始まる。


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