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【クローズアップ・マネージャー】吉田孝行監督「チームや選手の成長過程を見るのが楽しい…勝利を欲し続けるリアリスト」

今シーズンより就任した吉田孝行監督のロングインタビュー。神戸時代にはリーグ2連覇を達成するなど豊富な経験をもとに、エスパルスに“勝者のメンタリティ”を植え付けようと日々奮闘する指揮官の思考に迫った。


取材日:2月24日/取材・文=平柳麻衣


非常に濃い1カ月を送れた

――チームが始動してから、監督ご自身がテレビやラジオ等へ積極的に出演されている印象を受けています。

「生放送はあまり慣れてないんですけど(苦笑)、出てほしいと言われたものは基本的に出るようにしています。これだけサッカーを取り扱ってくれるテレビ局やラジオ局があるのも静岡の特徴だと思いますし、ましてやスタジオ生出演なんて他県ではなかなかないことですから」


――静岡での生活には慣れましたか。

「徐々に慣れてきましたし、どの場所に行けば何があるとかも分かってきたので生活もだいぶ落ち着いてきましたね。食事も『良いお店だよ』と聞いたところはメモしてあって、一つひとつ実際に行ってみたりして、いろいろな静岡の良さを楽しみながら仕事ができています」


――前節神戸戦で監督就任後初勝利。試合後には「吉田清水」コールも響きました。

「そんなコールをしてもらえるとは思わなかったので、素直に嬉しかったのと同時に、もっと勝ちを重ねて、もっと認めてもらえるように頑張らないと、という気持ちになりました」


――百年構想リーグからのスタートとなりましたが、特別大会だからこそ試せていることはありますか。

「もちろん今のベストは何かというのを求めて日々やっているので、そういう意味では通常のリーグ戦とそんなに変わらないですけど、このリーグだからこそ試せることも今後出てくる可能性はあるかなというのは自分の頭の中にも少しあります。ただ、ここまでの3試合でチームは修正も入れながら右肩上がりで成長しているという実感がありますし、まだ一つを極めていないのにいきなりいろいろなことにトライしようとしても、全部が中途半端になって結局何も残らなくなってしまうので、オプションの増やし方というのはしっかり状況を見ながら取り入れていきたいとは思っています」


――昨季までのエスパルスは選手の自主性を重んじていたため、吉田監督の細かな指導に驚く選手が多かったかと思います。そういった選手たちのリアクションは監督の目にどう映りましたか。

「正直言うと、始動して1週間ぐらいで初めてゲーム形式をやった時に、僕の中では『攻撃も守備も何から手を付けよう?』というところからスタートしたんですよ。結局、まずはやっぱり守備の安定さが重要なので、鹿児島キャンプでは7〜8割ぐらい守備重視のトレーニングを実施しました。伝えるべきことが多くて最初の頃はミーティングが長くなってしまったりもしたんですけど、みんなすごく集中して聞いてくれるし、伝えたことを練習の中で真面目に一生懸命やってくれるから、1カ月での成長度合いにびっくりして、非常に濃い1カ月を送れたと感じています。開幕してからも1試合ごとに成長しているのを感じるし、選手たちの『もっと上手くなりたい』『強くなりたい』『勝ちたい』という気持ちがすごく伝わってきて、選手たちには感謝しかありません」


――選手たちに話を聞くと、「タカさんは確率論で話してくれるから話が頭に入ってきやすい」とよく言います。その伝え方は、監督自身の経験が影響していますか。

「そうですね。現役時代を含めたら32年ぐらいJリーグで積んできた経験があるし、プレーヤー目線というのも分かります。だから選手たちが前向きなミスをした時には僕は絶対に否定しないし、選手の想像力やアイデア、個性というものもすごく大事だと思っているので、プレーの選択が確率論に当てはまらないものだった時も否定はしません。ただ、ビビったバックパスであったり、ネガティブなプレーからミスにつながった時にはうるさく言います。


確率論の話は、攻撃面に関しては大枠を伝えるぐらいで、守備に関して言うことのほうが多いかもしれないですね。自分たちの形やエリアごとにどういうふうに人が動いて、どうやったら失点のリスクを減らせるのかという話です。確率論にもメリット、デメリットがありますけど、僕はメリットのほうが多いと思っています。まずは『こういう場面になったらここまで戻る』といった習慣づけをすること。それを分かっていれば、何かあった時に立ち返る場所ができますし、チームとしても選手個人としても成長できると思います。それで京都戦、神戸戦とここ2試合でグッと良くなってきている感触はあるので、今できていることが当たり前のようになっていけばいいと思います」


――例えば北川航也選手は京都戦でのシュートブロックのシーンについて、「練習からタカさんに言われていることをやっただけ」といった話をしていました。

「練習でやったことかもしれないけど、あのプレーで1点救っていますからね。ウイングってアップダウンのスプリントが多いし、本当にキツいんですよ。でもそれはウイングだけでなく、全部のポジションがそう。みんなが同じようにやれば逆に高い位置でボールを奪って、より楽になるんですよね。だから京都戦の後にみんなに伝えたのは、敵陣で奪い返して、敵陣でサッカーをしようということ。カウンターを受ける回数が減ればそこまでキツいわけではないんだよという話をしましたし、選手たちも実際に名古屋戦と京都戦での変化から手応えを感じたのではないかと思います。


それに航也なんかも今年で30歳でしょう? まだまだ成長できるし、ポテンシャルを持っているんですよ。あれだけの身体能力を備えていて、守備で戻って、攻撃でもゴール前に入っていく能力があるのに、少し性格的に優しい部分があって、それがプレーにも出てしまっているなとキャンプの時から感じていて、彼に何も要求しないのはもったいない。まだまだ伸びるぞ、と。実際、始動してからの1カ月ちょっとでかなり変わったと思うし、今のポジションも違和感なくモノにしているので、これからアシストやゴールはもっと増えていくのではないかと思います。


神戸時代にも『これができなければ試合で使わないよ』と言ったら、必死になってやって動きがスムーズになった選手もいるし、30歳を過ぎて大きく成長した選手もいます。ホンちゃん(本多勇喜)だって神戸に来て32歳でリーグ優勝して、優秀選手に選ばれましたからね。そういう選手もいますから、やっぱりやるべきことを徹底するって大事かなと思います」


全員が“右腕”。厚い信頼関係づくり

――練習後などにいろいろな選手と1対1で話す場面を見かけますが、先ほどの北川選手の例のようなアプローチをしているのでしょうか。

「こういう時のプレーはこうだよ、みたいな話が多いですね。もちろん全体のミーティングでも話すし、個人的に話したり、映像を見せたりすることもあります。同じようなことを時にはコーチ陣が担ってくれることもあるので、みんなで同じ方向を向いてできているなと感じています」


――スタッフ陣が選手たちをしっかり見ているという環境づくりも始動から徹底されているなと感じます。

「自分に矢印を向けて『もっとこうせなアカン』と日々アップデートしながらみんなで作っていった結果が、今のようなトレーニングの形になっていると思います。例えばフィジカルトレーニングにしても、ポゼッションの練習にしても、コーチ陣が周りから手を叩いて盛り上げたり、『いいぞ』と声を掛けて選手たちを奮い立たせるのも僕らの仕事。コーチ陣みんなから見られていて、要求の声が飛んでくれば、選手たちもより気が引き締まるし、良い習慣がついてくるんですよね。あとは僕自身のスタイルというか、せっかちという性格もあるんですけど(苦笑)、ウォーミングアップはあくまでトレーニングに入るためのアップだから遊びの要素はあまり入れないし、トレーニング中もプレーの連続性やテンポ感を大事にしています」


――確かに、全体練習の時間は少し短めだなという印象を受けています。

「トレーニングの間のレストを最低限にしたり、メニューの説明をできるだけ端的にして、普通なら1時間半かかることを僕は1時間10分でやっているという感じですね。ほんの少しのことかもしれないですけど、そういったテンポ感やテンションを習慣づけると試合中のトランジションにも通じる部分があると考えていて。データで見ても1分間にどれだけ強度高く走っているかといったデータなどは、僕のトレーニングでは結構高いほうだし、他のコーチたちにも『トレーニング中はできるだけ選手を休ませない』という意識を共有しています」


――練習中は監督自身がメニューを説明する場面をよく見かけます。

「自分の性格上なのか分からないですけど、メニューも基本的に自分が全部決めるし、これが自分のスタイルであって、コーチ陣も自分のスタイルを理解してくれて、リスペクトしながらやってくれているので、みんなの理解に感謝していますね。戦術に関しても自分がこうしたい、この相手だったらこうしたいというのが明確にあるので、だったら監督自身が落とし込んだほうが選手にも説得力があるだろうし、ということです」


――“右腕”と呼ばれるヘッドコーチを置いて業務を分担するパターンもあるかと思いますが、吉田監督は選手に見せる映像編集までご自身で行っているとお聞きしました。かなり業務量が多いのではないでしょうか。

「いやいや、まぁオフの日もずっとそんなことをしているんですけど、“右腕”がいないとかそういうわけではなくて、それぞれに役割があって、僕からしたら『みんなが右腕』みたいな感覚ですね。誰一人欠かしてはいけないですし、僕のやりたい戦術も、次の対戦相手に対してどうするかという部分だけは僕しか分からないですけど、それ以外はコーチ陣全員が8、9割は分かってくれています」


――スタッフ陣に対して相当な信頼を置いているのですね。

「もちろん信頼しているし、みんな『一緒に清水へ行きたい』と言って来てくれているわけなので、信頼関係はすごく厚いと思います。僕が一方的に何かを言うだけでなく、お互いに要求し合ったり、何かを言い合うのも普通のことだし、言い合った末に最後は僕のことを尊重してくれるのも本当にありがたいこと。自分のアイデアだけでやっていると、自分だけで終わってしまうので、スタッフたちには『何でも言ってくれ』とよく言っていて、そういうやり取りをとおして自分だけのアイデアだったものがどんどん膨らんでいきます」


――サッカー指導者だけでなく会社員などにも通用する話かもしれませんが、立場が上の人に対して何かを言いやすい空気感を作るために工夫していることはありますか。

「とくに気をつけていることはないですよ。僕は僕で仕事に熱中している時はもう入り込んでいますし。もしかしたらスタッフ陣は多少は気を使っているのかもしれないですけど、普段から自分の役割をしっかりやってくれれば早く帰っていいよと言っているので、神戸時代からコーチたちのほうが先に帰ることは普通にありますし、責任を持って仕事をしてくれれば何も問題ないです」


苦しいことも楽しいことも一緒に経験して、強くなる

――今エスパルスに落とし込んでいるサッカーは神戸時代の経験が軸になっているかと思いますが、このスタイルにたどり着くまでに何かターニングポイントはありましたか。

「現役時代を含めて本当にたくさんの指導者から影響を受けましたけど、とくに松田浩さんとの出会いが大きかったですね。マツさんが監督で僕が選手という時期もありましたし、長崎ではマツさんが監督で僕がコーチという時期もありました。僕が指導者になったばかりの頃は、守備的なことはあまりやっていなくて、それこそ3点取られても4点取ればいいみたいな感覚だったんですよ。でもそれだと良い時は良いけど、悪い時に大崩れする。そんな時にマツさんとお互い指導者として再会して、マツさんから学んだのは守備の大切さと、戦術の言語化の部分。やっぱりこういうやり方が勝つんだというのを感じて、次もし監督をやる時にはこうしよう、と決めていました。それで2022年途中に神戸で3度目の監督を引き受けた時は、最下位からスタートしたんですけど半年間で優勝争いペースの勝点を積み上げて、翌年からリーグ2連覇できたので、自分の中でもやっぱりこれだなと自信を深めることができました」


――現役時代からいつかは指導者になることを考えていたのですか。

「監督はやりたいなと思っていて、現役を引退して比較的早く監督になることはできましたけど、今思うと少し甘かったなとも思います」


――ただ、リーグ2連覇をはじめ素晴らしい功績も残してきました。

「やっぱり勝つことで自分としても答え合わせができたというか、これだけやってもギリギリ優勝なんだなとか、もっとやらなきゃいけないなと気づいたりもしましたけど、何よりリーグ連覇を経験している監督って少ないと思うし、そういう意味では素晴らしい時間を選手たちからもらったなと思っています。リーグ優勝をして改めて感じたのは、自分が描いている基準は下げてはいけないということ。エスパルスもその基準にこの1カ月半でどんどん近づいてきていると思うし、もちろんまだ成長過程ではありますけど、チームが右肩上がりで成長しているという実感はあります」


――ここまでのチーム作りは神戸でやってきたことをベースに進めてきたかと思いますが、世界のサッカーが日々進化している中で、今後はどのようにチームを成熟させていきたいと考えていますか。

「もちろん世界のサッカーのトレンドは常に変わっているし、Jリーグだって今のようにハイプレスを主体とするチームは数年前は少なかったわけで、ブロックを敷くチームをどう崩すかというのが攻撃の視点だったと思います。でも近年はハイプレスをベースにした神戸が優勝したことによって、前からどんどんプレッシャーに来るチームが増えましたし、インテンシティという言葉も頻繁に出てくるようになりました。何が良いというよりかは、大事なのはサッカーの変化に対応する能力だと思います。ベースは変わらなくとも、相手をちゃんと分析して、例えば前から来ない相手だったら自分たちからボールを運んでいかないといけないし、そうなると選手同士の距離感も変わってきます」


――何でも柔軟に対応できるチームが良いということでしょうか。

「いや、もちろん何でもできるに越したことはないですけど、何でもと言って全部が薄れて結局何がしたいのか分からなくなってしまうのがよくありがちであり、一番やってはいけないことだと思います。だからまずは一つのことを極めること。極めた中で少しずつオプションを増やして、状況判断しながら戦い方を選択していくことが大事だと思います」


――監督業はやりがいと大変さ、どちらのほうが大きいですか。

「大変なことじゃないですか。やりがいを感じたのはタイトルを獲ったとかそういう瞬間だけで、もちろん一つの勝利もその瞬間は嬉しいですけど、試合が終わった1時間後ぐらいにはその試合の分析をしたり、次の試合に向けたイメージを描き始めていますからね」


――今、監督業を楽しめていますか。

「楽しいです、すごく。それは本当に選手たちが一生懸命やって成長していて、チームがどんどん形作られているという過程を見ることができているから。今後は試合によっての波をなるべくないようにして、選手としてもチームとしてももっと上を目指すんだぞというのを伝えていきたいし、それができそうな気配は感じています。あとはエスパルスに来て、クラブと現場が一体になっているというのをすごく感じるので、みんなで一緒に強くしているんだなという感覚も今、すごくいいなと感じているところです」


――吉田監督はサッカーというスポーツのどんなところに魅了されていますか。

「子どもの頃からサッカーしかやってこなくて、プロで19年やらせてもらって、そこから指導者になって……なんかもうサッカー尽くしの人生ですよね。サッカーというよりはJリーグの魅力と言えるかもしれないですけど、それぞれの地域にチームがあって、地域密着で応援してくれるサポーターがたくさんいることだと思います。やっぱりサポーターがたくさん入ってこそスタジアムの一体感が出るし、歓声や応援の迫力ってすごいじゃないですか。僕ら現場で戦っている選手、スタッフだけでなく、クラブスタッフやサポーターみんなが一つになって、苦しいことも楽しいことも一緒に経験して、強くなろうとしていくことが一番の魅力じゃないかなと思います」


――最後に、吉田監督の夢は何ですか。

「もしも日本代表の監督になれるという話が来たとしても、僕にはできないなと思います。岡田(武史)さんとかに話を聞いても、代表監督のプレッシャーってものすごいと言いますし、そもそも僕は代表チームよりもクラブチームのように毎日接して指導していくほうが性格的に向いている気がします。だから“夢”と言われると難しいですけど……もっと良い指導者になりたい。タイトルを獲り続ける監督になりたい。あとは、これは夢というより目標ですけど、このクラブでタイトルが獲りたい。そのためにエスパルスに来ましたから」


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第3節神戸戦でエスパルスの監督として初勝利を挙げ、初めて勝ちロコを踊った吉田監督は、「リズム感が合わせられなかったので、もうちょっと勉強をしておけばよかった(笑)」と、どこまでも真面目だった。


ストイックに監督業に向き合う姿勢は選手たちにも届いており、チーム始動から2カ月も経たないうちから「タカさんを喜ばせたい」といった声が挙がるほど、選手たちと良好な信頼関係を築き上げている。王国復権に向けた“吉田清水”の挑戦は、一歩一歩、確かな歩みを進めている。

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