日々の競争、陰での努力、悩み、葛藤……選手一人ひとりの物語を追ったコンテンツ【STORY】。今回は嶋本悠大選手編です。
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5月1日配信/取材・文=平柳麻衣
ボールがネットを揺らすと、スタジアムがドッと沸き、先輩たちが自分の周りに駆け寄って来て、あっという間にもみくちゃに押しつぶされた。
「本当に気持ち良かったなぁ」
点を取った者にしか味わえない唯一無二の感情。それを嶋本悠大はプロ2年目の4月、初ゴールを含め2度経験した。そして、その感情は「また点を取りたい」と嶋本の意欲をさらに掻き立て、成長へと導いている。
去年の先輩たちがいたから今の自分がある
大津高校から加入したプロ1年目の昨季、嶋本にとって今でも脳裏に焼き付いている試合が2つある。一つはプロ初先発となった第5節のアウェイG大阪戦。前半のみで交代となり、チームは0−1で敗れた。もう一つは、それから約8カ月後のホームC大阪戦。今度は前半27分で交代となり、チームは1−4で完敗。嶋本は交代後、ピッチ脇で悔し涙を目に浮かべながら戦況を見つめることしかできなかった。
「どっちの試合も鮮明に覚えています。前半だけで交代したのはガンバ戦が初めてで、もう何もできなかった。セレッソ戦もファーストプレーでパスミスをして、上手く試合に入ることができませんでした」
プロの洗礼を浴びた嶋本を、「ほぼ全員」の先輩たちが放ってはおかなかった。
「ガンバ戦の時は、食生活とかサッカーに対する考え方から改めるきっかけになったし、(乾)貴士くんが『オレのミスが多かったせいや』と言ってくれて、少しだけ気持ちが楽になりました。セレッソ戦はホームだったので、ほぼ全員が『大丈夫だから、気を落とさずやれ』って自分に声を掛けてくれました。まずベンチに下がった時にアチェ(アルフレド ステファンス)が出迎えてくれて、試合後にはベンチに入っていなかった(宮本)航汰くんとかもわざわざ自分のところに来て声を掛けてくれて、その日の試合後、代表遠征に行かなきゃいけなかったんですけどその前に(小塚)和季くん、(中原)輝くん、(千葉)寛汰くんがご飯に連れて行ってくれて……。本当に先輩たちに恵まれた1年でしたし、去年の先輩たちがいたから今の自分があると思っています」
なかでもとくに目を掛けてくれていたのは、自身も年代別代表の経験を持つ矢島慎也だった。
「慎也くんが一番最初に良くしてくれたというか、最初にイジってくれたから、そこから他の先輩たちとも話せるようになったし、プロ1年目でそういうふうに気にかけてもらえると嬉しいじゃないですか。もちろんサッカー面でも本当にいろいろなアドバイスをくれました。慎也くんのすごいところは、あの脱力している感じ。ボールを持っても慌てないところ。自分も高校時代は慌てていなかったんですけど、プロに入ってからは相手のプレスも速いから、もういっぱいいっぱいで。慎也くんは落ち着いて相手の逆を取れるし、ボールを持った時の質も高いし、シュートもマジで上手いんですよ。それは和季くんとか貴士くんとかもそうで、自分も高校の時はできていたから、その頃の感覚でプロでもやりたかったんですけど、最初の頃はそう簡単には上手くいかなかったですね」
矢島はメディアの前でも個人名を挙げて嶋本を含む後輩たちに期待を掛けており、日頃の練習でも常々細かなアドバイスをしていた。
「慎也くんは良いときも悪いときもしっかり見てくれていて、よく言われたのは、例えば基礎のパスコン(パス&コントロール)の練習一つにしても、大体みんなファーストタッチは外に置くんですけど、試合を想定して内でタッチしたほうが良いよとか、シュート練の時はどういう感覚で、重心はどこに置くのかとか、常に『試合を想定してやりな』と言ってくれていました。慎也くんからの期待はすごく感じていたからこそ、結果でその期待に応えたかったですし……初ゴール、観てくれたかな。LINEで連絡をとったことがないんです。久しぶりに会いたいな。(山原)怜音くんからは『おめでとう』って連絡が来ました。本当にいろいろな先輩にお世話になっています」
「ガムシャラさが足りない」と言われて
昨年末から1月末にかけてU-23日本代表に招集されていた嶋本は、昨季のシーズン終了後からほぼオフのないまま『AFC U23 アジアカップサウジアラビア2026』を戦い、鹿児島キャンプ後にチームに合流した。吉田孝行監督は嶋本と個別ミーティングを実施し戦術理解を深める機会を設けてくれたが、4月1日の神戸戦までの9試合では、途中出場が2回だけ。3月下旬の代表ウィークでは年代別代表から落選し、厳しい現実を突きつけられた。
「プロ2年目になって、代表で良い感触も掴めていた中でなかなか試合に出られないというのは結構苦しかったです。出ている選手が試合終盤になって疲れていそうに見えても自分に出番が来なかった時は、やっぱりまだまだ信頼されていないんだなと思いました。でも、自分としてもタカさんのサッカーを頭では分かっていても身体が上手く動かせてない部分もあったりしたので、自分がもっとサッカーが上手くなればいいと思うようにしていました。
ただ、先輩たちには何度も頼らせてもらいました。僕は何か悩み事があったとき、自分の中で溜め込むのではなく、誰かに言いたいタイプなんです。寛汰くんとか日髙(華杜)は僕の話を聞いてくれるというか、話しやすい先輩なので、何かあったら聞いてもらっていましたし、寛汰くんはよくアドバイスもしてくれます。あとは(宇野)禅斗くんとかに『上手くいかないです』って相談したこともありました」
昨季から若手選手を中心に行われている筋トレも、チームとして実施回数が増えただけでなく、嶋本は自分が筋トレメンバーに選ばれていない日もコーチ陣にお願いしてよりコアな部分の筋力トレーニングに取り組んできた。
「腕は太くなった気がするし、筋力だけでなく初速やアジリティのところも鍛えてもらっていて、少しずつ変化が出てきたかなと思います。最近よくいろいろな人から『身体が大きくなったね』と言われるようにもなりました。
サッカー面では、タカさんから『ガムシャラさが足りない』と言われました。若いからこそもっと貪欲になれ、と。そういう姿勢やボールを奪うという部分は禅斗くんを見ながらやっていきたいし、攻撃面でのアクセントの付け方は和季くんを見習いたいですし、まだまだ足りない部分のほうが多いので、もっともっと自分を伸ばしていきたいです」
とにかく結果を出すことしか考えていない
そして迎えた4月5日のアウェイ長崎戦。第11節神戸戦から中3日で組まれた連戦で嶋本に今季初先発の機会が巡ってきた。チームは開始7秒にオ セフンのゴールで先制。そして直後の4分、井上健太のクロスに対して嶋本がドンピシャヘッドで合わせてプロ初ゴールを奪取した。
「ヘディングシュートの練習は特別していないですけど、その前のジュビロとのトレーニングマッチでも似たような形で決めていたので、得意な形なのかなと思います。健太くんとはそれまでにサッカーの話をいろいろなところでしていて、それもあって直感で“ここ”という感覚が合ったのかもしれないし、健太くんがキックモーションに入った時に自分はもう走っていました。相手の前に身体を入れられたのも良かったし、ボールの軌道もすごく良かったです」
それから4試合連続で先発出場を続け、29日に行われたホームでの長崎戦。開始早々に退場者が出るというアクシデントが発生した中、21分、弓場将輝がターンで相手をかわしてセフンにボールを送ると、シュートのこぼれ球を嶋本が左足で冷静に流し込み、今度はアイスタでの初ゴールを決めてみせた。
「プロ初ゴールも、アイスタでのゴールも嬉しさは同じぐらい。個人的には前回の長崎戦で点を決められたので良いイメージを持っていて、また点を決められるかなと思っていました。それに一人少なくなって自分が点を決めたらチームが楽になるかなと思っていたので、点だけを狙っていました」
チームは悔しくも逆転負けを喫したが、嶋本はプロ2得点目以外にも、ボールの受け方やターンの仕方に余裕が出てくるなど、随所に存在感を発揮した。
「高校時代まではあんなターンなんてできるようなタイプじゃなかったんです。とくに誰かの真似をしているわけではないですけど、強いて言うなら、寛汰くんのプレーをちょっと意識しているところはあるかもしれないですね。今日(4月29日)はタッチしてターンするか、触らずにターンするかの見極めも良くできていた感触があるし、良いイメージで試合を重ねられているので、このまま続けていきたいです」
日頃のトレーニングや練習試合で積み重ねてきたこと、周りの選手たちのプレーを盗み見て真似たこと。嶋本が辿ってきた足跡はしっかりと“自信”として本人の中に刻まれている。同時に「今は点とアシスト。とにかく結果を出すことしか考えていないです。自分が点を取ってチームを勝たせたいです」と強い責任感も芽生えてきた。
今、サッカーが楽しい
2006年生まれの19歳。2028年のロサンゼルス五輪世代でもある嶋本は、これからエスパルスでどんな道筋を歩んでいきたいのか。奇しくも昨年1月のインタビューと、プロ初ゴールを決めた後のインタビューで返ってきた言葉は同じだった。
「みんなに愛される選手になりたいです」
嶋本が考える、“愛される選手”とは――。
「観ている人をワクワクさせられる選手。この人が出ていれば何かしてくれるかもって思わせられるような選手になりたいです。そのためにはミスを恐れて縮こまったプレーをするのではなくて、どんどんチャレンジしていく姿勢が大事だと思います。
そう思うようになったのは高校生になる時ですかね。クラブチームではなく高校サッカーを選んだのも、高校選手権とかですごいプレーに対してスタンドがワ―って沸いているのを見て、自分も点を取って観客を沸かせるような選手になりたいと思ったから。その考えはずっと変わらずに持っています」
プロになり、自分のゴールでより多くの観客が沸く感覚を覚えた今、嶋本は「サッカーが楽しい」と目を輝かせる。
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高校からプロの世界に足を踏み入れるにあたって、嶋本はエスパルスを選択した理由に「チームの雰囲気や空気感が自分に一番合っている」ことを挙げていた。たくさんの先輩たちに愛され、ファン・サポーターからの期待を受けながら過ごす今、クラブへの愛着も日に日に増してきている。
「このクラブの人も雰囲気も、全部好きです。そう思えるのは、先輩たちのおかげかもしれないですね」
「エスパルスで主力に定着して結果を残し続けること」が、やがては日本を背負って戦う道へとつながっていく。そう信じて貪欲さを解放した未完の大器は、一試合ごとに大きな成長を遂げている。大ブレイクの予感を漂わせる若武者の成長曲線は、まだまだ計り知れない。
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