今夏、サンフレッチェ広島から完全移籍で加入した木下康介選手。ヨーロッパでプロキャリアをスタートさせたストライカーが自己流で磨いてきたスタンス、そして吉田スタイルのサッカーの下で模索している最適解とは。
8月5日公開/取材・構成=平柳麻衣
自分の最適解を見つけられたらいい
――いよいよ今週末からリーグ戦が開幕します。ここまでの手応えはいかがですか。
「順調かなと思います。個人的には練習試合を1試合飛ばしましたけど長い離脱にはならなかったですし、良いキャンプもできて、しっかり積み上げられたかなと。僕は新加入の立場だったので、このチームのやり方だったり、周りの選手の特徴をより知るために、選手やコーチングスタッフたちとピッチ内外でなるべく多くコミュニケーションを取って、感覚的な部分を分かりあえたらという意識で取り組んできました」
――チームから求められることはスムーズに理解できましたか。
「そうですね。元々どういうサッカーをしたいというプレゼンは受けていたのでイメージは持っていましたし、タカさん(吉田孝行監督)のチームは神戸時代も含めて対戦もしているので、そこまでビックリするようなことはなく、すんなり入れたかなと思います。ただ、あくまでプレシーズンはプレシーズンなので、大事なのはここから。本番が始まってみてエラーが出ることもあるだろうし、大変な時期も来ると思いますけど、そこで何ができるか、ですね」
――木下選手にはどんなことを要求されることが多いですか。
「まずはチームとしてのやり方を覚えること。あとは、言われはしないですけど、もちろん点を取ることが一番だと思いますし、そこは責任を持ってプレーしたいと思っています」
――吉田監督のサッカーの面白みはどんなところに感じますか。
「ダイナミックに前に進んでいくので、その中で僕自身はフィジカル的な要素が生きるのかなと思うし、あとは前線はやっぱり連携も大事になってくるので、攻撃のバリエーションがどう生まれるかなというのは僕自身も楽しみにしているところでもあります」
――面白い感性を持っているなと感じたチームメイトはいますか。
「例えばブル(マテウス ブルネッティ)とかは独特のリズムがあって、ボールの持ち方もすごく分かりやすいし、良いタイミングでパスも入ってくるし、やりやすい感覚はあります」
――外国籍選手とはよくコミュニケーションをとっているのですか。
「そうですね。やっぱりチームだとどうしても日本人とセパレートになってしまう部分もあるんですけど、カピ(カピシャーバ)も含めて彼らは英語も喋れるので、僕とかジャメ(ジャーメイン良)とかが間に入ってよくコミュニケーションを取るようにしています。ピッチ外でのコミュニケーションもピッチ内に通じるものがあると思っていますし、単純にブラジル人の中に日本人が混ざるって面白いなとも思うので」
――そういったコミュニケーションは、ご自身も海外でプレーした経験も影響していますか。
「キャリアもそうですけど、僕自身も新加入なので、自分の世界の中だけにいても周りとの距離は縮まらないですし、新加入だからこそいろいろな選手とどんどん喋るべきだと思っています。一人の時間も好きですけど、食事とかは誰かと食べるほうが美味しいですし、そこはバランスですね」
――ここまで複数の攻撃的なポジションを練習しているかと思いますが、感触はいかがですか。
「まぁまぁ、思ったよりはできているかなと思います。それぞれのポジションによってタスクが違うんですけど、基本的には前目のポジションであることには変わりないので、そこは上手くやれているかなと思います」
――その中でも一番しっくりきていると感じるポジションはありますか。
「慣れているのはやっぱり1トップですよね。ただ、こればかりは蓋を開けてみないと分からないと思います。やっていきながら個人としてもチームとしても課題や修正点が生まれるだろうし、その中で自分の最適解を見つけられたらいいかなと。自分自身が求めるかどうかにもよりますけど、何歳になっても伸びしろはあるものだと思っているので」
――伸びしろの部分も、今回の移籍を決めた理由の一つと言えますか。
「そうですね。自分の成長というのを常に考えている中で、縁あってオファーをもらって、周りの人に相談したり、自分でもいろいろ考えました。その中で移籍に至った大きな要因としては、やっぱりクラブの熱意を感じたことと、ビジョンが明確だったというのは一つ大きいかなと思います」
白黒はっきりしている感じが自分には合っている
――以前のインタビューで「若い頃は尖っていた」というお話がありましたが、いつ頃から変わってきたと感じていますか。
「一番はケガかなと思います。高卒でブンデスリーガのチームに加入して、多少なりとも調子に乗っていたところもありました。でも19歳の時に足首をケガしてから思うようなプレーができなくなってきて、自分の内に秘めた自信とプレーの質にギャップが出てくるようになり、そこで鼻をへし折られたというか、初心に返って積み上げなくちゃいけないんだという気持ちになりました」
――元々はどういった経緯で高卒から海外に挑戦したのですか。
「小さい頃からJリーグの試合よりはヨーロッパの試合を観ていたので海外志向は強かったですし、自然とそういう意識が芽生えたというか、当たり前のようにヨーロッパでプレーするんだという意識でやっていました。今振り返っても、これ以上ないキャリアのスタートだったと思いますし、そこからケガや挫折など苦い経験もたくさんしてきましたけど、それらを含めて成長につながりましたし、良かったなと思っています」
――挫折を経て、具体的にはどんな部分に変化が生まれましたか。
「一番はやっぱり身体との向き合い方の部分ですね。高卒で知識のないままドイツに行ってしまったので、ケガに対する予防や治療のことを全然分かっていなくて。ケガって単純に痛くない=治ったというわけではなく、しっかり動きを戻さなければいけないし、そのためにリハビリをするんですよね。そういったところが、海外というのもあってコミュニケーションが上手く取れなかったり、『日本で治療したい』と言っても帰らせてもらえなかったりして、フラストレーションが溜まっている時期もありました。僕の場合は目に見えて大きなケガというわけではなくて、元々は足首を蹴られたことによる強い打撲から始まり、動きが悪くなった中でプレーしていたために捻挫して、その後は剥離骨折だったり、関節ねずみになったり、靭帯が切れたりもして、結局手術したのは去年なんですけど、ずっとケガを抱えながらやってきました。今思えばそれは本当に自分の責任で、高校生の頃からグラウンドに行ったらすぐにボールを蹴って、終わったらシュート練をして帰るみたいな感じで、ウォーミングアップやクールダウンを蔑ろにしてしまっていたんです。でも、そういったことも経て自分なりにセルフケアの知識も得たし、今は割とケガもなくできているので、そこも自分には必要なプロセスだったのかなと思います」
――プレースタイルとしてはどのように強みを磨いてきたのですか。
「スピードやシュートの技術は小さい頃から積み上げてきた部分が大きくて、それをケガでなかなか力として発揮できない時期もありましたけど、自分自身を疑うことなく取り組み続けてきました。その中で良いトレーナーの方にも出会って、『今の身体だと、まだポテンシャルの半分も出せてないよ』と言われたりもして、少しずつトレーニングや治療を重ねて今のスタイルがあります」
――ポジションはGKから始まり、徐々に前線に上がってきたそうですね。
「そうです。普通はFWから後ろに下がっていくパターンが多いから、珍しいタイプだと思います。僕の場合はサッカーを始めたのが小学3年生と少し遅くて、それまでは父親が野球人だったので草野球をやっていて、その流れで同じ“手を扱う”という意味でGKからスタートしました。小さい頃は本当にトーキックしか蹴れないぐらい、めちゃくちゃ下手くそだったんですけど、当時の監督やコーチ陣がGKに固定せず、いろいろなポジションを『やってみるか』と挑戦させてくれる方たちで、GKに固執しなかったのが大きかったなと思います」
――FWをやっている今は、自分に合っているポジションだと思いますか。
「いろいろなポジションをやってみたいなと思ったりもするんですけど、でもFWって点を取ったら評価されるし、点が取れなかったら評価されない。その白黒はっきりしている感じが自分には合っているのかなと思います」
――数字の面での評価はプレッシャーに感じるタイプですか。
「プレッシャーは感じますよ。でも、それに打ち勝ってきたという自負があるので。FWである限りそれは常に付きまとってくるものですし、新シーズンが始まったらまた0から積み上げていかないといけない。でもそれが嫌というわけではなく、FWのやりがいだと思っています。そのためには日々の積み重ねが大事で、毎日をどう生きているか、睡眠や食事などピッチ外も含めてどんな生活をするのか。それが自分の強さになるし、芯になる。1週間どう積み上げてきたかが試合で出るし、やってきたことが自分の自信になる。その繰り返しだと思っています」
――理想のFW像や参考にしている選手はいますか。
「いろいろな選手を観ていますけど、どちらかというとプレーよりも立ち居振る舞いの部分ですね。例えばクリスティアーノ ロナウドやズラタン イブラヒモヴィッチ、リオネル メッシがピッチでどう立ち振る舞っているかとか、今最高のストライカーと言われているハリー ケインはどんなメンタリティで戦っているのかとか。ロベルト レヴァンドフスキだって決定機を外すこともあるけど、そこからどう挽回していくのか。そんなところを観ながら、自分もピッチで存在感を出せるFWでありたいと思っています。威圧感で相手を下がらせるようなFWでいたいと思いますね」
ゴール前で相手にとって危険な存在になること
――エスパルスではどんな時間を過ごしたいですか。
「まずは私生活を含めて楽しくできたらいいと思うし、その中でやっぱり充実した日々にするには試合に勝つこと。個人としても結果を出すこと。それはどこにいても変わらないことだと思っています」
――エスパルスというクラブの印象はいかがですか。
「まだ試合をしていないですけど、温かいなという印象ですね。この前の必勝祈願ではサンバ隊のパレードもこの炎天下の中でやってくれたり、サポーターズサンクスデーにもたくさんの人が集まってくれたり、温かい人たちが多いなという印象で、この人たちの期待に応えたいという気持ちにさせられました」
――チームは今季、「タイトル獲得」を目標に掲げています。チーム内の空気感などはどのように感じていますか。
「僕自身は昨季までのことが分からないので何とも言えない部分もありますけど、始動日から選手やコーチングスタッフからすごいエネルギーを感じています。ただ、『タイトル獲得』と目標を口にするのは簡単で、大事なのは実際にタイトルが手の届く位置に見えるようになって、そこからだと思います。まずは優勝争いができる位置に居続けることで、自ずと言わなくてもみんなの方向は明確になると思うし、チーム全体が自信をつけられると思います。そのためには戦術どうこうもありますけど、やっぱり一番は個々が局面で勝つことが大事で、だから日々の意識から練習も試合も、個が自立した強い選手が増えていくほどチームは強くなる。それがチーム力というもので、僕もその一人になれたらと思います」
――自分に一番期待してほしいことは何ですか。
「やっぱりゴール前じゃないですか。ゴール前で相手にとって危険な存在になること。アシストやチャンスメイクも含め、数字の部分にも期待されていると思うので、そこは自分にも期待してシーズンを戦っていきたいと思います」
――エスパルスサポーターの皆さんへ。
「とにかくタイトル争いをする位置に居続けたいと思うし、そういう景色をサポーターの皆さんと一緒に見たいと思っているので、一人でも多くの人にスタジアムへ足を運んでもらって、一緒に勝利を分かち合えたらと思います」
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穏やかな口調で紡ぎ出す言葉の一つひとつに、熱量がほとばしっている。
ゴール、アシスト、チャンスメイク。FWならではのプレッシャーと日々向き合いながら、得点関与への強い責任感を抱く木下が、ピッチで躍動し、観る者の心を何度も震わせくれるであろうことに期待が高まるばかりだ。
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