今夏、湘南ベルマーレから完全移籍で加入した藤井智也選手。スピードとインテンシティの高さを武器にサイドを制圧するアタッカーだが、インテンシティの高さを強みにしたのは「最近のこと」だという。気づきを与えてくれた恩師との出会いや、エスパルス加入に際した覚悟を聞いた。
8月6日公開/取材・構成=平柳麻衣
かなり強気にポジションを取ってみたら…
――今夏から完全移籍で加入しました。始動からここまでの印象はいかがですか。
「最初は移籍も3回目なのでもう慣れているだろうと思っていたんですけど、やっぱり新しいチームに来るというのは緊張するものなんだなと改めて感じています。ただキャンプに行ってからはいろいろな選手と話すことも増えましたし、現地で一緒にオフの時間を過ごしたりしていくうちに会話も増えて、ちょっとずつ馴染んでこれたかなと思います」
――チームに対してはどんな印象を抱きましたか。
「サッカーに対してすごく真摯で真面目に向き合っている選手が多いなという印象ですね。監督も『勝つために』と常々言っていますけど、そこから考えて練習もやっていますし、それを行動や言葉にできる選手が多いなと。だから僕もそこにしっかり乗っていかないといけないなという思いです」
――オーストリアキャンプを経てどんな部分に手応えを感じましたか。
「まずエスパルスのサッカーを理解するにあたって、湘南でもハイプレスをやっていたのでその感覚でいけると思っていたんですけど、エスパルスはそれよりもっとファイヤーポジションを取ったハイプレスだったので、最初の頃はどれぐらい攻めて良いのかが分からず戸惑いました。でも、キャンプ中の練習試合でかなり強気にポジションを取ってみたら、それが意外とハマることに気づいて、ここまで強気で行っていいんだというのが分かったことが一番勉強になりました」
――実戦をこなすことで理解が深まったということですね。
「もともと僕は基本的に全力で追って、戻ってを繰り返すタイプなので、そういった献身性を大事にする部分はチームのやり方とマッチするとは思っていましたし、タカさん(吉田孝行監督)にプレゼンしてもらって移籍を決めた時にもタカさんが求める強度のイメージを持ってこのチームに入りました。でも、やっぱり練習ではコートも狭かったりしますし、実際の温度感や空気感、インテンシティもイメージだけでは全然分からない部分がたくさんありました。それでもサイドバックをやっている(吉田)豊くんだったり、(北川)航也くんをはじめ同じようなポジションの選手何人にもいろいろと話を聞いていって、少しずつ勉強して、正して、挑戦して、また調整して、というのを繰り返してここまで来たので、そんなに日にちは経っていないんですけど、もう何カ月も一緒にやっているかのような充実感が自分の中にはあります。あとはこれを本番でもできるようにしていきたいですね」
――守備面でとくに意識していることは?
「これもまた難しいんですけど、僕らが目指しているサッカーって牽制から始まっているとも言えるじゃないですか。僕らが牽制するから相手GKは出しどころがなくなって、蹴り飛ばされたとしても他の選手が対応する。だから最初にどれだけ“守備行ってますよ感”を出せるかが大事で、駆け引きする時にあえてボケっとしているような振る舞いをして相手を油断させるというやり方の人もいますけど、僕はどちらかというと前面に圧を掛けたいタイプ。(長澤)徹さん(湘南監督)にそういうのをいろいろ教わったので、そこは大事にしている部分で、自分ができる最大値をサボらずにしっかりできる選手になっていきたいと思っています」
自分の中では“一番ゴールに近かったシーズン”
――「サボらないこと」はキャリアにおけるキーワードと言えますか。
「そうですね。僕は『これぐらいでいいや』で失敗してきたので。鹿島で2年目の時のホーム東京V戦で、3−0で勝っていたんですけど、自分が出てから追いつかれて引き分けた試合があったんです。自分の中に『まぁこれぐらいで大丈夫だよね』みたいな気持ちがあったのは明らかだし、自分の手を抜いた守備から流れを持っていかれてしまったので、本当にダメなプレーだったと思います」
――「これぐらいでいい」と思ってしまった要因は自分で分析できていますか。
「周りにすごい選手がたくさんいて、自分はずっと途中からしか出られない試合が続いていて、もちろん自分に問題があったんですけど、頑張りたい意志はあってもどう頑張ればいいのか分からなくなってしまっていたんです。周りの選手たちがすごいから、そこに甘えてしまっていたんだと思います。その後も鹿島ではなかなか上手くいかず、守備のやり方を学んだのは、湘南に行ってからのこと。僕は守備が得意な選手ではないけど、守備って不調でも最低限できることってあるじゃないですか。例えばトラップでミスをしてしまったとしても、その後ダッシュで守備に戻るとか。攻撃で上手くいかないと思ったら、とりあえず守備に集中してしっかりゲームに入って流れを掴めば大丈夫だと徹さんにずっと言われて、今もそれを徹底してまずは守備から入るように努力しています」
――「まずは守備」という考え方が身についたのは最近のことだったのですね。
「本当に最近ですね。それまでは攻撃で突破できたらいいとか、そんなふうにしか思っていませんでした。湘南に加入した1年目で、結局チームは降格してしまったんですけど、とにかく何とかしてチームを勝たせたい。応援してくれているサポーターのために勝利を届けたい。そのためには献身的にやるしかない。そう思って取り組むようになってから、百年構想リーグでの半年間では牽制だけでなく、より守備の重要性を徹さんに教えてもらって、徹さんとの出会いが自分をサッカー選手として大きく成長させてくれました」
――ただ、それでも広島、鹿島と強豪チームを渡り歩いてきたのは、よほど攻撃面の特徴が秀でていたとも言えるかと思います。
「経歴だけ見るとそう見られるんですよね。もちろん広島の時はイケイケどんどんの時期もありましたし、だからこそ守備の部分は勝手に自分で目を瞑ってしまったというか、課題であることは分かっていながら、当時の自分はまだそれを認められなかったんじゃないかな。『だって仕掛ければ抜けるもん』と思ってしまって。でもだんだん歳を重ねて、自分でもこの状況は『まずい』と気づけたのが湘南に行ってからのこと。ただ、プレーヤーとしては大きく変わっていなくて、何かが格段に良くなったというわけじゃなく、意識の面に変化が出てきたんじゃないかなと思います」
――エスパルス加入にあたってはどんな部分を評価してもらいましたか。
「いろいろなことを言っていただきましたけど、一番はインテンシティが高く、サイドで突破ができて、タカさんの左ウイングの像には強くハマると言われました。インテンシティについても、徹さんの話ばかりして申し訳ないですけど、以前、徹さんに『自分の武器は何ですか?』と聞かれた時、僕は『スピード』と答えたんです。でも徹さんに『それは違う。君の武器はインテンシティだ』と言われて。その強度は攻撃だけでなく守備でのスイッチにもなるし、守備で迫力を出すことができると言われて、その言葉だけを信じて百年構想リーグでの半年間、守備のプレッシングの強度やプレスバックの強度、攻撃では裏に走る強度など、すべてをそこに集中してサッカーをしてきました。自分の中でも強度の出し方が分かるようになってきた感触があったし、自分の武器は強度だというのを理解して、繰り返し出せるようになってきたかなと。だからタカさんからのプレゼンを最初に受けた時、いろいろな数字やグラフを見せてもらった中でインテンシティの部分を評価していると言ってもらえたのはすごく嬉しかったです」
――自分の中で軸になるものを見つけることができたのですね。
「そうですね。今はもう、困ったらまずは守備からちゃんと組み立てようと考えますし、どの試合も入りはまず相手に守備でどう圧をかけるかという部分を考えるようにしています。もちろん百年構想リーグでは守備を重視していたこともあって、ゴールやアシストという数字はほとんど残せなかったんですけど、でも自分の中の感触では“一番ゴールに近かったシーズン”なんです。そうやって大事にしている部分から試合に入ると、他のプレーにも良い影響が出てくるんだと感じることができました」
競争に食らいついて、打ち勝っていく
――ここまでのお話を聞く限り、湘南にはかなりの愛着があるようですが、それでも今回の移籍を決断した理由は?
「愛着は正直、すっごくありました。でも、これもまた徹さんの話になるんですけど、ある日のミーティングで、雪山の上で死んでしまっているヒョウの写真が出されたんですよ。何もご飯がない、獲物もいない雪山の頂上なんて登る必要ないじゃないですか。なのにヒョウがそこにいるのは何故だと思う?という質問をみんなに対して投げかけて、徹さんの答えは、『登ってみたいという好奇心で登ったんだと思う』というものでした。で、移籍を決めるにあたって、給料とかは二の次で、ものすごく悩みました。J2に落としてしまった責任も感じていましたし、自分が愛着を持っているクラブでJ2でもやるのが生き様としていいんじゃないかとも思ったんですけど、サッカー選手としてJ1からオファーをもらって、なおかつ自分の大事にしている部分も高く評価してもらえている。だったらチャレンジしない理由がないというか、挑戦する姿のほうがカッコいいんじゃないかなと。そういう感謝の表し方もあると考えたら、もう行くしかないと思いました」
――エスパルスに加入して、以前のインタビューでは「ライバルがたくさんいて大変だ」と話していました。ここまでのチーム内競争はどう感じていますか。
「いや大変ですよ。誰をどこに動かしてもみんなできてしまうから、ライバルだらけです。タカさんのサッカーは右ウイングと左ウイングで役割が違って、自分はタイプ的に左が主戦場になると思うんですけど、そこも特徴のある選手ばかり。ただ、そういう競争に勝っていかないと“本物”にはなれないと思うし、何も分からないまま過ごしてしまった鹿島時代のような過ごし方をすることのないように、競争に食らいついて、打ち勝っていかなければいけないと思っています」
――今年で28歳になりますが、これからのキャリアで成し遂げたいことはありますか。
「広島の時にルヴァンカップで優勝したんですけど、準々決勝ぐらいまではほぼ試合に出ていたのに、準決勝、決勝では試合に出られず、決勝はスタンドから優勝を見届けたのがすっごく悔しくて。準々決勝まではチームの力になれていたのに、準決勝、決勝で見届ける側に回ったのがすごく情けなかったし、悔しかったので、エスパルスでまずは監督が言っているようにタイトルを獲るためにできることをやりたいです」
――エスパルスサポーターの皆さんへ
「エスパルスに来て、タカさんが『チーム一体となってサポートしてくれている』と言っていたんですけど、本当にそのとおりで、フロントスタッフも含めいろいろな人がこのチームが勝つために力を使っているクラブだなと感じました。そういう人たちを喜ばせるためにできることをしたいというか、そういう部分に心を動かされるタイプなので、とにかくタイトルを獲りたいという想いです。エスパルスのために献身的に、たくさん走って頑張ります!」
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タイトル争いをする強豪チームでは、若さのまま勢いに乗った時期もあれば、課題に直面し苦悩の時間を過ごしたこともあった。しかし、少し遠回りになったかもしれないが、胸を張ってJ1で堂々と戦える自分の武器を身に着けた。
これまで成長を見届けてきてくれた人のために、そしてエスパルスで“タイトル獲得”の目標を果たすために、「献身的に、たくさん走って頑張る」――。藤井は圧倒的なスピードで、アイスタのスタンドを大いに沸かせてくれることだろう。
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