例年以上の注目を集めることになった新体制発表記者会見は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、初めてオンラインのみで行われることになった。これまで東京V、C大阪を率い、両クラブとも各カテゴリーの上位に押し上げたロティーナ監督、イバン パランコヘッドコーチ、トニ ヒル プエルトフィジカルコーチなどコーチ陣が刷新され、さらに選手も大幅に入れ替わった。会場となったクラブハウスに集まった権田修一、指宿洋史、片山瑛一、鈴木義宜、永井堅梧、ディサロ燦シルヴァーノ、中山克広、原輝綺、成岡輝瑠の9人に加え、オンラインでチアゴ サンタナ、ウィリアム マテウスの2人の計11人が参加。大熊清GMが「『上手い清水エスパルス』でなく皆さんが希望している『強い清水エスパルス』を築きたい」と力強く語った。
期限付き移籍からの復帰などを含めると、チームの約半分が入れ替わったことになる。前年は降格の無いシーズンだったが、最下位を何度か経験するなど苦しみ、最終節に勝利して16位。通常であればあったはずの自動降格圏を、ようやく脱出したにすぎない。それだけに、この大きく変わったクラブに期待度は高かった。
コロナ禍の中、順調に鹿児島キャンプ、三保での練習を積み重ね迎えた開幕戦は「常勝軍団」鹿島。先発メンバーには新加入選手6人を加え、これまでの選手と融合させた布陣だった。前半は、この年から取り組んでいる組織的な守備を見せ、さらに日本代表GK権田の好セーブなどもありスコアレスで折り返す。75分に先制点を奪われたが、これが選手たちの目を覚まさせた。その3分後、サンタナが持ち味のゴール前の勝負強さを見せてチーム初&来日初ゴールを挙げて同点に追いつくと、83分には後藤優介の豪快なダイビングヘッドで逆転に成功する。勢いに乗った新生エスパルスは、さらに88分に河井陽介のコーナーキックがオウンゴールを誘発し、ダメ押しの3点目。鮮やかな逆転劇で、華々しくスタートした。
しかしこれ以降、これを超える試合がなかなか見せられなかった。ホーム開幕戦となった第2節福岡戦では、カルリーニョス ジュニオ、中山克広のゴールで2-1のリードを保ったまま90分を経過。だが、後半アディショナルタイムにエミル サロモンソンに痛恨の同点ゴールを決められてしまう。勝ち点3を目前で逃してしまうと、同じような取りこぼしが続き、ホーム初勝利は5月26日の第16節FC東京戦まで待たなければいけなかった。
このFC東京戦は、この年のベストゲームとも呼べる試合だった。リーグ9試合勝利がないどん底の状態で迎えた試合。序盤にサンタナのゴールで先制すると、前半アディショナルタイムにヴァウドのゴールで追加点。後半開始直後にも片山瑛一のゴールで3点リードを奪うと、FC東京の猛攻をかわして初の完封勝利となった。ようやく攻守が揃ったように見えた。
一方ルヴァンカップでは、第2節仙台戦で鈴木唯人のプロ初ゴールで勝利、さらに第5節の同じく仙台戦ではディサロ燦シルヴァーノのエスパルス初ゴールなど4-1で勝利し、グループステージを2勝2分2敗で突破。鹿島とのプレーオフステージに臨むことになった。ホームアンドアウェイで争われる同ステージ、第1戦は試合序盤決められたゴールが決勝点となり0-1と落としてしまうが、アウェイで行われた第2戦、サンタナのゴールで同点に追いつく。それでも、45分にファン アラーノに決められて2戦合計1-2とされると、後半にもゴールを奪われ、プライムステージ進出とはならなかった。
その後、天皇杯2回戦福山C戦に勝利するなど、公式戦6戦無敗とチーム全体として調子を上げてきたように思われたが、ACLの日程などで延期されていた第18節川崎F戦に敗れると、再び勢いがしぼんでしまう。天皇杯でもラウンド16で川崎Fに敗れてしまい、ここで全てのタイトルの可能性が消滅。リーグ第31節福岡戦では、死闘の上で勝利を挙げたが、そこから3連敗。ロティーナ監督が契約解除となり、2年連続で平岡宏章監督が終盤の立て直しをはかることになった。
就任からわずか2日後。準備もままならない中で迎えた札幌戦は、サンタナのゴールで先制するも、その6分後に追いつかれる難しい展開。49分に逆転ゴールを許してしまうと、平岡監督はユース時代からの愛弟子である滝裕太を投入。その滝が、83分に同点ゴールを決めて、首の皮一枚つながった。「清水愛」で再びチームを率いることを決断した平岡監督は、初戦で勝ち点1をつかむと、ワールドカップ予選などの期間を活用して整備を進め、翌広島戦はサンタナのゴールを守り抜いて勝ち点3を手にする。さらに浦和戦は、90分まで0-0という緊張感のある試合だったが、後半アディショナルタイムに中村慶太の劇的ゴールが決まり、シーズン初の連勝を記録。そして、負ければ降格の可能性もあった最終節C大阪戦は、オウンゴールで先制点を与えてしまうというなか、鈴木義のゴールで同点。そして、後半には西澤健太の左足ミドルが豪快に突き刺さり、最後の3試合を3連勝と、追い上げる下位チームを振り切って残留を達成。順位も上げて14位でフィニッシュとなった。
J1に復帰した17年以降、8位だった18年を除くと毎年のように下位に位置している。3年連続シーズン途中の監督交代、そして、最終節で何とかJ1に踏み止まっている状態だ。特に、この年は大型補強などで期待値が高かった分、この順位に納得できないサポーターも多いことだろう。翌シーズンは、2度チームの危機を救った平岡監督がシーズンのスタートから指揮を執る。指揮官の熱い思いを選手たちが感じ、これまで忘れがちになっていた「戦う」という気持ちの部分で、サポーターに応援されるような「強いエスパルス」への変貌が求められる。そして何より30周年となる2022シーズンは、この経験を糧に、逆襲の年にしなければいけない。