自力でJ1昇格を掴むチャンスは2度あった。どちらもサポーターの悲願に指先が触れそうなところまで近づいていた。だが、勝ち切るだけの力が足りなかった。
クラブとしては2016年以来、2度目となったJ2リーグへのチャレンジ。前年から主力の多くが残り、J2では飛び抜けた戦力と言われた。ゼ リカルド監督が続投し、戦術的な継続性もあった。
当然開幕ダッシュで昇格争いをリードしていくことを目指していたが、ホームで開幕した水戸戦は0-0のドロー。前シーズンの4-4-2から3-4-2-1に布陣を変えて臨んだが、それが狙い通りに機能せず、後半は4バックに戻し、流れを取り戻したが、90分を通してチャンスを決めきれなかった。
開幕戦で波に乗れなかったエスパルスは、その後も本来の得点力を発揮できないまま5試合連続ドロー。そして6節・群馬戦、7節・甲府戦に連敗したところでゼ リカルド監督が契約解除となり、新任の秋葉忠宏コーチが監督に就任した。
「エスパルスファミリー」という表現でサポーターとの一体感を呼びかけ、熱い気持ちと言葉でチームを引っ張る秋葉新監督の下、初戦の8節・東京V戦は、開始6分で先制されたが、前半アディショナルタイムに北爪健吾のゴールで同点に追いつき、90分にオ・セフンが左CKから渾身のヘッドを叩き込んで逆転。それまで見られなかった土壇場での勝負強さを発揮して、リーグ戦初勝利を掴んだ。
そこからは8戦負けなし(6勝2分)と戦績はV字回復。秋葉監督は、乾貴士をサイドハーフからトップ下に移して自由を与えることで彼本来の攻撃センスを発揮させるなど選手個々の特徴を活かし、「超攻撃的に、超アグレッシブに」という強気の姿勢でチーム本来の力を引き出した。
それによって、10節・山口戦で6-0、14節・いわき戦で9-1、15節・藤枝戦で5-0と得点力も爆発。7節終了時で19位だったところから、15節終了時でプレーオフ圏内の5位まで上がり、得点数(33点)ではダントツの首位に立った。
またリーグ戦と並行して戦ったYBCルヴァンカップでは、初戦の川崎F戦に3-2で勝利する好スタートに成功。秋葉体制になってからは出場機会に飢えた選手やユース選手を積極起用しながら戦って、最終的には2勝2分2敗のBグループ2位に終わり、惜しくもグループステージ突破はならなかった。
6月7日に2回戦からスタートした天皇杯は、1-1で迎えた延長戦で勝ち越し点を奪われてJ3の岐阜に敗れ、初戦敗退に終わっている。
リーグ戦での16節以降は、エスパルスの圧倒的な攻撃力を警戒して守りを固める相手が増え、その攻略に手を焼く中で19節まで1勝3敗と一時的に失速。とくに先制されると苦しい展開になり、シーズンを通して逆転勝ちが2回だけという部分は課題として残った。
そのまま21節・秋田戦まではゴールを量産できない試合が続いたが、23節・長崎戦はアディショナルタイムの北川航也の劇的な勝ち越しゴールによって3-2で勝利。良い流れからの得点も生まれて攻撃のリズムが出始め、続く仙台戦は3-0、大分戦は2-1と3連勝。ゴール前での崩しの質を高めて、得点力を取り戻していった。
27節からは海外に挑戦していた鈴木唯人と原輝綺が復帰し、29節・東京V戦では鈴木唯の技ありゴールによって1-0で勝ち切るなど、28節から4連勝。原が右サイドバックと3バックの右センターバックの両方でハイレベルなプレーを見せたことによって、試合の中で4バックと3バックを臨機応変に使い分けていく戦い方も成熟し、勝ち切る力につながっていった。
31節の首位町田との大一番では、前半に2点先行されたところから3点を奪い返して逆転勝ち。84分の西澤健太の高速クロスをエースのチアゴ・サンタナが頭でニアに突き刺した逆転ゴールのシーンは、アイスタを興奮の渦に巻き込んだ。
そうした好循環の連鎖もあって、対戦が2巡目に入ってからは36節まで負けなし。14戦無敗というクラブ新記録を打ち立て、35節終了時点でついに自動昇格圏の2位に浮上した。
しかし、37節では残留争いの渦中にある藤枝に0-2で完敗。非常にもったいない敗戦で3位に転落。1週間後には、2位・磐田との“静岡三国決戦”ラストマッチを迎えた。
1万9千人近い観客が詰めかけてアイスタが最高の雰囲気となった魂の戦いは、サポーターの想いが乗り移ったかのような41分の乾のゴールで先制し、スタンドの絶大な後押しを受けながら守り切って1-0。絶対に勝たなければいけない戦いに勝ちきって、自力で2位の座を奪い返した。
その後のラスト4試合は、いわきに7-1で大勝したが、18位(当時)の熊本にはホームで今季初の逆転負け。この敗戦も本当に悔やまれるが、ライバルも勝ちきれず2位を保ち、ホーム最終戦では大宮に4-0で快勝。2位を守ったまま、勝てば自動昇格という水戸との最終節を迎えた。
アウェイのケーズデンキスタジアム水戸に約4千人の清水サポーターが応援に駆けつけ、アイスタでのパブリックビューイングにも約3千7百人が詰めかけた運命の一戦。だが、前半は水戸の術中にはまってエスパルスらしさをほとんど発揮できず、後半は持ち直したが、62分にミスから先制点を奪われる苦しい展開に。それでも81分にサンタナの意地の一撃で追いつき、その後も決定機を作り続けたが最後まで勝ち越し点は決めきれず、無念の1-1。磐田と東京Vが勝ったことで順位も4位まで落ち、昇格の望みはプレーオフに持ち越された。
プレーオフの1戦目はアイスタに5位山形を迎え、非常に難しい戦いになったが相手の攻撃をきっちりと押さえきって0-0のドロー。規定によりリーグ戦上位のエスパルスが決勝に進む。 そして国立競技場で開催された東京Vとのプレーオフ決勝には約2万人の清水のサポーターが詰めかけ、スリリングかつ拮抗した熱戦の中で63分にサンタナがPKを決めて先制。その後は押されながらもアディショナルタイムまでリードを守り続けたが、残り3〜4分というところでPKを献上して追いつかれ、1-1で終了。これで3位の東京VにJ1昇格を奪われ、エスパルスの2023年はあまりにも悔しい結末に終わった。
「チャンスを何度も何度も逃した結果がこれ。まだまだ力が足りないんだと思います」と白崎凌兵は試合後に言葉を振り絞った。秋葉監督は「何回負けて泣いてるんだと。これをしっかり心に刻んで、これからのフットボール人生をどう過ごすのか。自分がどうなりたいのか。オフシーズンに一人一人がしっかりと見つめ直して考えたい」と語った。
自分たちが強く変わらなければ望むものは得られない。その現実を突きつけられた1年となった。