23年ぶりのタイトル獲得、リーグ戦では初の年間王者、そしてJ1昇格。2024シーズンのオレンジ軍団は、就任2年目の秋葉忠宏監督がこだわり続けた「勝負強さ」を実らせて、過去2年間の悔しさ、無念さを払拭する最高の結果を残した。
大事な勝負どころで昇格を逃し続けた2023年の反省を踏まえ、始動時からより「凡事徹底」を追求し、練習からチーム全体で緩みや妥協を許さない姿勢を高めていった2024シーズン。その成果は、熊本との開幕戦でさっそく表われた。
方でのアウェイ開幕戦で39分に先制され、非常に難しい展開になった中、60分に中盤の厳しいプレスでボールを奪ってショートカウンターという狙っていた形で山原怜音がチームの初ゴールを決めて同点に。土壇場の88分にはきれいな崩しから原輝綺の折り返しがオウンゴールを誘発し、前年は2回しかなかった逆転勝ちを開幕から実現した。
これで勢いづいたホーム開幕戦(vs愛媛)では、新キャプテンの北川航也がいきなり2得点の大活躍。GK権田修一のビッグセーブもあって2-0で完勝し、開幕2連勝を飾ったことは選手たちの自信という意味でも非常に大きかった。
3節の長崎戦はミスによる失点もあって初黒星を喫したが、その後は3連勝。7節で山形に2敗目を喫したが、9節で甲府を破って初めて首位に立つと、そこから怒濤の7連勝。15節終了時点で2位の長崎に勝点7差をつけるスタートダッシュに成功した。
だが、16節ではアウェイで優勝争いのライバル横浜FCに、内容でも上回られて0-2の完敗。そこから山口、愛媛、秋田とアウェイゲーム4連敗を喫して、21節終了時点で首位を陥落した。この5〜6月はセンターバック陣にケガが重なって、シーズン中でもっとも苦しい時期だったことは間違いない。
だが秋葉監督は、「優勝するには途中で苦しみや厳しさというのは必ずあると思いますし、風邪をひくときもケガするときもあります。だからこそ、その時期に何をして、どう復活するか、その期間をいかに短くするかが大事だと思います」と、原因の探求と改善に取り組み続けた。
と同時に、23節までホームで10勝1分と聖地アイスタで圧倒的な強さを見せていたことも、チームの一体感を支えていた。
そして「距離感が少し間延びしていたところがあって、そこを修正できた」(秋葉監督)ことも奏功し、24節大分戦で5試合ぶりのアウェイ勝利を挙げると、25節には守備の要に成長した住吉ジェラニレショーンもケガから復帰し、失点は減少していった。
25節仙台戦には惜敗したものの、26節からは9戦負けなし(6勝3分)と復調。リーグ終盤になって相手にも研究・対策され、苦しい試合も多かったが、この時期にエスパルスならではの強みとして光ったのが、出番が限られた選手たちの活躍だった。
31節ホームの山口戦では、後半で1-1に追いつかれた後、70分に投入された矢島慎也が2分後にきれいな裏への抜け出しから華麗なループシュートを決めて勝ち越し。矢島はさらにもう1点流し込み、89分にはドウグラス・タンキがCKからダメ押し点を叩き込んで、交代出場の2人が4-1の快勝に導いた。
続く29節徳島戦(台風で延期になった試合)は、63分に先制された後、69分に入ったタンキが続けざまに2得点して逆転勝ち。
次の32節藤枝戦は、前半は主導権を握られて先制点も奪われたが、16試合ぶりに出場していた西澤健太が52分に強烈な右足シュートを突き刺して同点に追いつくと、チーム全体が一気に勢いづいて8分間で2点を追加。
2試合連続の逆転勝ちで、順位も1位に返り咲いた。
出場機会が減っても腐ることなく自らを磨き続けた西澤の働きに感動した秋葉監督が、試合後のDAZNインタビュー、ロッカールーム、記者会見と3回涙を流したことも話題となった。
次の33節、横浜FCとの国立決戦は勝ちきれなかったが、34節水戸戦では勝てば自動昇格が決まるという状況までいよいよこぎつけた。
2023年の最終節でも、同じアウェイの水戸戦に勝てば昇格という状況だったが、そこで勝ち切ることができずプレーオフに回ったという苦い思い出があり、まさに因縁の舞台。
だが、今回はワンチャンスを生かされて2点を先行される苦しい展開となり、北川と矢島の得点で2-2のドローに持ち込むのが精一杯だった。
そこからアイスタに戻った35節山形戦も、勝てば自動昇格という状況は同じだったが、75分に北川のゴールで先制したところから終盤に2点を奪われて逆転負け。
そこまで無敗を誇っていたホームでの初黒星でもあった。
大事な局面での3戦勝ちなしは、勝負強さを求め続けてきた中で課題として残ったが、やはり悲願を成し遂げるのは容易ではないという最後の試練でもあった。
それでも次の36節、アウェイの栃木戦では、CKからの住吉の値千金の一撃により1-0で勝利し、ついに3年ぶりのJ1復帰を自力でつかみ取った。
さらにホームに戻った37節いわき戦では、蓮川壮大がプロ初ゴールを決めて1-0で勝利し、その瞬間にエスパルスのJ2優勝も確定した。
優勝セレモニーでは、聖地アイスタ全体に心からの笑顔があふれ、エスパルスを愛する全ての人たちが「この光景を何度でも観たい」と強く心に刻みつけた。
優勝決定弾を叩き出した蓮川も「もちろん(優勝は)嬉しいですけど、個人としてもチームとしても上のレベルで結果を残せるようになりたいという意欲がさらに強くなりました。まだJ2ですし、もっともっと成長していかなければいけないと思っています」と、次の舞台に向けて決意を新たにした。
最終節は、前年にホームで痛い目に合った熊本に対して、原のゴールにより1-0で勝利し、アイスタで有終の美を飾った。
ラスト3試合は、権田の負傷もあってGKを沖悠哉と猪越優惟が務め、得点者は全てDFという形で3戦連続の1-0。1年を通して培ってきたチームの底上げや勝負強さが証明された締めくくりとなった。
それでも反町康治GMは、「安定した戦いはしたと思うけど、上位にいる長崎と横浜FCには勝っていない。
その現実をしっかり見たうえで、来季に向けてやるべきことを粛々とやるしかない」と優勝を決めた直後に兜の緒を締めた。
ただ、優勝&昇格という結果以外にも、2024年のエスパルスには大きな収穫があった。ホームゲームでは14勝4分1敗と無類の強さを発揮し、それが集客増にもつながって、ホームゲームの平均入場者数は17,750人に増加(前年比で3千人以上プラス)。
2011年以降ではJ1での数字も上回って最多を記録した。
来場者の中に若い層が増えていることも実感でき、「エスパルスファミリー」に新たな機運が高まっていることも感じとれた2024年。33年のクラブ史の中でもエポックな1年となった。