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【クローズアップ新加入】キム ミンテ「Jリーグ11年目。強さと状況判断力がもたらす信頼」

新加入選手をクローズアップしたロングインタビュー。今回は夏に湘南から期限付き移籍で加入したキム ミンテ選手。J1で200試合以上出場と豊富な経験を生かし、6クラブ目の所属チームとなるエスパルスでも自身の経験値を存分に生かしている。熱さと冷静さを兼ね備えたDFリーダーの内面に迫った。


10月15日公開/取材・文=平柳麻衣


センターバックはボランチとの関係性がすごく大事

――8月の加入後、すぐさまチームに馴染み、ここまで出場停止だった鹿島戦を除く全6試合にフル出場しています。シーズン途中の移籍に際して、何か意識したことはありましたか。

「性格的にはどちらかというとシャイなタイプなので、自分から話しかけるのはあまり得意ではないですけど、話すことは嫌いではないので、チャンスがあればみんなと喋ろうとしています。ただ、それよりもまずはサッカーをするために清水に来たので、サッカーをしっかりやっていくことが一番大事だし、練習や試合で良いプレーを見せて、試合に出してもらえたら結果で応えることが何よりの信頼になると思いながらやってきました」


――DFの選手が信頼を得るために大事だと思っていることは何ですか。

「やっぱり一番は守備での安心感だと思います。どれだけパスが上手かろうが、攻撃につながるプレーができようが、それよりもまずは“守れる”というところを見せるのが一番。あとはただボールを奪えるだけでなく、数的不利か有利か、ガツッと奪いに行くべきか少し構えるべきかの状況判断力もすごく大事だと思っています。そういった冷静に判断する部分は練習からとくに意識して取り組んでいます」


――加入してすぐスタメンで試合に出られたことに対して、どのような感情を抱きましたか。

「やっぱり夏の移籍はすぐに試合に出て活躍してほしいという期待をチームも持ってくれていたと思うし、自分自身もプレッシャーを感じていたところはありました。ただそれ以上に、移籍したらすぐにスタメンを勝ち取って活躍してやろうという気持ちを強く持って移籍を決めたので、今もその気持ちのままプレーしています」


――エスパルスからのオファーで一番魅力を感じた部分は?

「まずは技術の高い選手が多いことと、あとセンターバックはボランチとの関係性がすごく大事な要素の一つだと思っていて、良いボランチの選手が前にいてくれるとすごくやりやすくプレーできます。そういう面で言えば、エスパルスには(マテウス)ブエノはもちろん、彼一人だけでなく上手いボランチが何人もいて、自分ものびのびプレーできるのではないかと思いました」


――ブエノ選手はまだ日本に来て1年目ですが、対戦相手としてはどのように見ていたのでしょうか。

「ブエノの上手さはもうJリーグ全体でも有名になっていると言えると思いますよ。自分が湘南で対戦した時はブエノと(宇野)禅斗の組み合わせだったと思いますけど、2人ともキープ力があり、常に相手からしたら嫌なボールの持ち方をしていたイメージがあったので、味方になってくれたらすごく助かると思いました。実際にチームメイトになっても、やっぱり素晴らしい選手で、ブエノは今季のJリーグNo.1ボランチだと僕は思っています。また、ブエノだけでなく禅斗や(宮本)航汰もしっかり自分のプレーを持っていますし、(弓場)将輝もボランチとして持っているべき技術をしっかり持っていると思います。(嶋本)悠大は本当にプロ1年目なのかとびっくりするぐらいテクニックや落ち着きがありますし、本当に良い選手ばかりが揃っていると思いますね」


『上手い選手でありたい』という気持ちはずっと持っている

――対戦相手として見ていた秋葉エスパルスの印象は?

「ボランチから前線にかけてテクニックのある選手がいるということと、チームとして戦おうとしているなという印象はありました。でも、逆に言えばテクニカルな選手が多い分、強度の面では『強い』というイメージがあまりなかったのと、守備のコントロールの部分は自分が加入することで変化を加えていければと思いました」


――エスパルスはJ2時代から秋葉忠宏監督が「J1に昇格してもタフに戦えるチームに」と言い続けてきましたが、それでもやはりずっとJ1にいるミンテ選手から見たら、強度の面で物足りなさを感じたということでしょうか。


「Jリーグの傾向として、数年前と違って京都や町田、神戸、鹿島など、パスサッカーというよりは球際に強くいけて走れるチームが上位にいるのが目立ってきています。なので、そういう部分に関しては、エスパルスはまだまだ伸びしろがあるんじゃないかなと思っています。

ただ、これだというスタイルが決まりきったサッカーにはいつか限界が来ると思っていて、そういう意味ではピッチ内での判断力を大事にする秋葉監督の考え方が僕はすごく好きです。相手のやり方を見て、肌で感じたことに対して柔軟に対応しながらこれもできる、あれもできるというのが理想だし、僕も相手を“見る”というところにはすごく力を入れています。

サッカーには正解はないですから、今季も先ほど挙げたチームが上位にいる一方で、柏のように今季からパスサッカーにシフトして上位に食い込んでいるチームもありますし、また数年経ったら、数年前の横浜FMや川崎Fのような繋ぐサッカーが強くなる時期が来るかもしれません。僕個人としてはそういうチームが多いほうがサッカーは楽しいと思っています。秋葉監督は戦う部分に加えて、よく『静岡のチームなのだから』と言って技術の部分を高く求めてきます。僕自身も『上手い選手でありたい』という気持ちはずっと持っているので、エスパルスのチームとしての哲学も、秋葉監督の考え方も好きですね」


――そういったチームの哲学の部分なども、移籍を決めた要因の一つになっていますか。

「いや、正直そこまで深くは知らなかったので、来てみてからここを選んで良かったなと感じることが多いです。監督が求める部分と自分の考えにズレが少なければ少ないほど、プレーに迷いはなくなりますし、秋葉監督は自分で考えて一生懸命頑張ってやったことを評価してくれるので、やりがいを感じることができます」


――ミンテ選手のお話を聞いていると、Jリーグ全体をよく見ているんだなと感じます。

「Jリーグをすごく見ているというよりは、守備の選手だからじゃないですかね。守備は基本的に受け身なので、対戦するにあたって相手チームのやり方を知ることがすごく大事ですし、分析もしっかりやります。なので、プロになってから今までの経験が、自分の中に積み重なってきている部分があるのかなと思います」


――今回の移籍にあたって自分に課したミッションはありますか。

「チーム全体に関しては、優勝やACL圏内と離れていてモチベーション的にどうしても難しい中で、そういうチームをどこまで変えられるかということ。守備に関しては、ジェラ(住吉ジェラニレショーン)や(蓮川)壮大といった能力の高い素晴らしい選手がいますが、まだ経験値が足りないので、そこを埋めて守備に安定感をもたらすことです」


――そのミッションに対して、具体的にはどのようなアクションを起こしていますか。

「まずクロス対応のところはしっかり整備しようとしていて、それ以外でもキーパーと連携してシュートコースを限定することだったり、僕がこういうふうにやるから、そっちは任せるよと役割分担を明確にすることで防げるところは結構たくさんあると感じています。あとは横浜FM戦(8月16日/1−3で敗戦)を観て、ボールを持っていない時間に少しふわっとしているところが何回かあったので、そういう場面でのリスクマネジメントをしっかりすることで、カウンター攻撃を受けるにしても、どうしようもないような状況をつくられることは少なくなってきているかなと思います。実際に失点も減ってきていますし、一歩ずつ守備面は向上していると感じています」


――守備を整備するにあたって、周りの選手にアドバイスをすることはありますか。

「そうですね。例えばFC東京戦の失点に関しては、壮大と(梅田)透吾の2人とすぐに話しました。壮大はファーのコースを切ろうとしていたと思いますけど、もちろん相手が上手かったというのもありますが、なるべく外に持っていかせることができれば透吾は止められたと思います。壮大は能力が高いのにもかかわらず、相手に入れ替わられないように受け身の守備になってしまうことがよくあるので、入れ替わられても俺がいるから突っ込んでくれと常に伝えるようにしていて、少しずつ良くなっていると思いますし、相手と近くでぶつかるほうが壮大の良さがより生きると思っています。

透吾とは映像を見返してみて、最初から少しポジションがズレていたよねという話をして、お互いに納得した部分がありましたし、そういった細かいコミュニケーションを取って、失点シーンはもちろん、防げたシーンや相手のシュートが外れたシーンについても確認し合うようにしています。自分の意見を伝えるばかりでなく、『俺の考えはこうだったけど大丈夫?』という確認もしますし、今もまだ少しずつすり合わせていっている最中ですね」


――アドバイスというよりも、お互いの意思疎通を大事にしているのですね。

「まずは『どうだった?』と意見を聞くことから始めるようにしています。人それぞれ感じ方は違いますし、自分が見えていたものと周りからの見え方は違ったりしますから。一つの場面に対してしっかりコミュニケーションを取っておくと、次にまた似た状況になった時に声掛けの仕方が少し変わったりもします。また、試合中にはお互いの声が聞こえないこともよくあるので、例えば『壮大なら多分こうするだろう』と予測してプレーしなければいけない場面もあります。そういう意味でも、日頃からのコミュニケーションはすごく大事にしています」


23歳でミシャさんと出会って、サッカー人生が変わった

――ミンテ選手のサッカー観に一番影響を与えてくれた指導者はいますか。

「ミシャさん(ミハイロ ペトロヴィッチ)ですね。僕は今でこそ自信を持ってビルドアップができますし、足元の技術が得意だと言えるようになりましたけど、ミシャさんに出会うまでは本当に下手くそでした。23歳でミシャさんと出会って、たくさんチャレンジと失敗を経験できたことが今にすごく生きていると思います」


――ペトロヴィッチ監督に一番求められたのは、足元で繋ぐことだったのですか。

「一番求められたのは“見ること”と“やってみること”です。ミシャさんが札幌に来て1年目は、とにかく縦パスを入れること。たとえパスが通らなくても、トライすると『ブラボー』と言ってくれ、一番多く『ブラボー』と言ってもらえた選手が試合に出ることができたので、とにかくどんどんパスを刺していきました。練習でたくさんトライすると、試合でもそれができるようになるんですよね。

縦パスを入れることが増えてくると、今度は守備をしながら自然と、マイボールになったら次はどこに繋ごうかと攻撃の選手の立ち位置を見て準備しておくことができるようになっていきました。やっぱりボールを取られることやカウンターを受けることは誰もが怖がりがちですけど、その1年のおかげで自分のサッカー人生が変わったと思います。2年目になると、今度は縦パスを入れるだけでは『ブラボー』とは言われず、ちゃんとパスを通してから。その次はゴールまで繋がったらとか、みんなを騙すようなパスを出せたら、と求められる基準が少しずつ上がっていき、4、5年目になってからはもうミシャさんのサッカーが身体に染み付いていました」


――ペトロヴィッチ監督のサッカーは決まりごとが多いですか。

「多いですね。だから人によっては楽しくないという人もいると思いますけど、逆に決まりごとがあるからこそ、もう見なくてもこのタイミングでここに人がいるというのがわかるんですよ。この人がここにいるなら自分はここで受ける、そうしたら別の人はこっちで受ける、とお互いのプレーが繋がってパスがパンパン通った時は本当に気持ち良いですし、後ろから見ていても楽しかったです」


――ペトロヴィッチ監督のサッカーと比べると、秋葉監督のサッカーはかなり自由度が高いと感じるのでは?

「監督のスタイルによってそれぞれの楽しさや魅力があると思います。自分はミシャさんから学んだ経験をもとに、秋葉監督のサッカーの中で自分でプレーを選ぶことができます。ただ、サッカーは11人対11人、もっと言えば監督やベンチメンバーも含めての“騙し合い”だと思っていて、相手をよく見て、自分で判断して、相手の逆をとるという部分はどのスタイルにおいても変わらないことだと考えています。結局は相手の嫌がることをするのが一番大切なので」


――韓国の大学を出てからずっと日本でプレーを続けていますが、Jリーガーになって良かったなと感じる部分はありますか。

「僕が日本に来て1、2年経ってからDAZNが入ってきて、Jリーグが発展し、(アンドレス)イニエスタ選手やダビド ビジャ選手、僕が一番好きだったフェルナンド トーレス選手と対戦することができました。それ以降も一緒にやっていた選手たちがたくさん海外に行って活躍していたり、本当に良いタイミングでJリーグに来れたなと思っています」


――今シーズン残りの試合に向けて、そして今後のキャリアにおける目標を聞かせてください。

「まずは今季残り全部勝ちたいですし、全部無失点で終えたいと思っています。僕は残り4試合(※湘南戦は契約により出場不可)なので、その4試合でみんなが持っていない僕なりの良さをたくさん示して、チームが目標としている一桁順位で終わらせたいです。

今後のキャリアについては、あと10年はサッカーを続けたいと思っています。外国籍選手でJ1で300試合以上出ているのは2、3人しかいないと思うので、その中に入れるようにJ1で頑張りたいです」


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Jリーグでのプレーは11年目。今回の約30分に及ぶロングインタビューも、流暢な日本語で受け答えした。


「日本に来て最初の頃は本やアニメ、ドラマを見て日本語を勉強しようとしたんですけど、なかなか覚えられなくて。服や靴など買い物をするのが好きだったので、できるだけたくさんの場所に出かけてみて、店員さんと話してみたり、いろいろなシチュエーションを経験することでだんだん話せるようになりました」


DFとして何よりの武器である“経験値”を惜しみなくチームに還元しているミンテ選手。頼もしい兄貴分として守備陣を統率し、鉄壁の守りを築く。


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