2025シーズン開幕直前特集!今回は北川航也選手の【STORY】をお届けします。
2月15日公開/取材・文=平柳麻衣
2019年夏、念願の海外移籍を果たした北川航也は、そこである男と出会った。彼の名はステファン・シュワブ。北川にとって、「今まで出会った中で一番衝撃的だったキャプテン」である。
「俺がラピード・ウィーンに合流したのが、シーズンが始まる1週間前ぐらい。最初にパッとチーム全体を見た時、一目で『この人がキャプテンだな』って分かったんです。ロッカールームの中やトレーニング中、試合の時も、とにかく存在感がすごかった。ああいう感覚の人に出会ったのは初めてでしたね」
特別、威厳があるわけでもないし、時にはジョークを言い合ったり、チームメイトからイジられることもある。それでもチーム全員が彼を慕い、心からリスペクトしていることが感じ取れた。
「すごく口数が多いというわけではないけど、外国人にも気を配ってくれる選手だったので、自分もよく話しました。彼の何がすごいって、彼がやると言ったら全員がしっかりついて行くこと。これがキャプテンシーかと。練習も絶対手を抜かないし、誰よりも練習する。中盤の選手で、試合にもフルで出て最後まで戦い抜く。だからみんなついて行くし、ヨーロッパの人がそこまでやるんだったら、日本人の自分はもっとやらなきゃと刺激も受けました」
まずは自分がピッチ内で全力を尽くす姿を見せれば、みんなは自然とついてくるはず――彼から学んだキャプテン像が、今の北川の中にある。
FWがキャプテンをやるのはすごく難しい
昨季、初めてキャプテンに就任した北川は、「FWがキャプテンをやるのはすごく難しい」と度々こぼしていた。ただでさえFWはチームが点を取れなければ、批判の的になりかねない。そこに“キャプテン”という新たな重圧が加わった。自然体で振る舞っているように見えた北川でも、ストレスやプレッシャーを感じる部分はあったという。
「自分が点を取れなかった時に、“キャプテンのくせに”とか“キャプテンだから”と言われるのが一番嫌でした。キャプテンだから点が取れないわけではないし、そこは別ものですからね。一人のプレーヤーとして見てもらえないことがとにかく嫌だった」
それに加えて、尊敬するステファン・シュワブがそうであったように、「キャプテンは90分ピッチに立ち続けるもの」という美学が北川の中にあった。秋葉忠宏監督のアグレッシブなサッカーはとくに前線の選手の体力の消耗が激しく、途中交代は仕方がない部分もあるが、仲間にキャプテンマークを託してピッチを後にするたびに、葛藤も抱えていた。
10月27日の栃木戦。予想もしていなかった出来事が起こった。途中出場でピッチに立った北川は、退場処分を受け、わずか13分で退くこととなった。
アディショナルタイムも含めた残り時間、ピッチ脇で祈るように戦況を見つめていた北川は、J1昇格決定となる試合終了のホイッスルと同時に泣き崩れた。
「そのままピッチに立っていたら泣くことはなかっただろうけど、みんなに迷惑をかけた申し訳なさと、昇格が決まってホッとした気持ちの涙だったのかなと。チームメイトに感謝するとともに、自分の未熟さや力のなさを深く感じました。もう一度、自分がサッカー選手としても人間としても憧れられるような人にならなければいけないと強く思いました」
当然、北川が起こしてしまった行為は決して許されるものではない。しかし、翌節のいわき戦で優勝が決まり、セレモニーで北川がシャーレを手にした際、スタンドから沸いた歓声が、彼の一年間の貢献を物語っていた。
「期待してもらっている分、いろいろな声が耳に入ってくることはあります。でも、こんな自分でも(シャーレを掲げる瞬間を)待ってくれている人が多かったんだなと思うと、チームのために戦ってきて良かったなと思ったし、チームメイトや支えてくれる皆さんに改めて感謝したいと思いました」
選手としてのプレーの幅は広がっている
2025シーズンを迎えるにあたって、秋葉監督がキャプテンに選んだのは再び北川だった。昨季は苦悩も味わった北川だが、「もし断る理由があるとしたら、人前で話すのがちょっと苦手なことぐらい。でもやっぱり光栄なことであり、誇りなので」と引き受けることにした。
アカデミー出身でクラブ愛の強いエースが腕章を巻いてピッチを駆ける姿は、クラブの希望そのものであり、秋葉監督もそのような選出理由を挙げている。
一方で、北川はクラブの未来を見据え、自身が“クラブの顔”を担い続けることに危機感も感じているという。
「いつまで俺がこの役割を担うんだろうって。嫌だとかマイナスな感情ではなくて、俺がメディアなどでよく取り上げてもらったり、ポスターなどに起用してもらうようになり始めたのが、たしか21歳とか22歳の頃。そして今年29歳になる。もちろん今もそのように扱ってもらえることは選手として誇りですけど、俺の代わりになる若い選手にもっと出てきてほしいし、そこはクラブの問題として考えていかなければいけないんじゃないかなって。
やっぱり自分は小さい頃にこのクラブに憧れてプロを目指したので、子どもたちが憧れるクラブであり続けてほしい。J2での2年間は、J1で戦うための苦しみや頑張り、喜びであったと思っているので、クラブとしても選手としても成長した姿を見せるために、今季はより結果にこだわっていくシーズンにしなければいけないと、自分だけでなくチーム全員が感じているところだと思います」
個人としては昨季、チーム内トップの12得点をマークしただけでなく、不慣れな1トップにも適応しようと奮闘し、新たなプレースタイルに手応えを得た。
「もちろんまだまだ改善するところや伸ばしていかないといけないところはあるけど、選手としてのプレーの幅は広がっていると感じています。久々のJ1は非常に楽しみだし、3年前よりもいろいろなことができるようになった自分をピッチの上で表現できればいいと思います。
J1は決して甘くないし、苦しい時間、難しい時期も訪れるかもしれない。でも、自分たちもこの2年間で『勝って当たり前』というプレッシャーの中で勝ち続けるタフさを身につけたし、粘り強さであったり、最後まで戦って勝点をもぎ取る強さみたいなものはついてきたと思う。だから自信を持って、みんなと一緒にまた1年間を戦い抜きたいです」
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J2優勝で味わったタイトルの価値は、「一つだけでは分からない」と北川は言う。
「一度優勝しただけでは、『何をしたから優勝できた』まではっきりは分かりません。ただ一つ言えるのは、とにかくブレることなく自分たちに集中した1年間だったということ。やっぱり優勝するか、しないかは天と地の差だと思うし、優勝争いをする過程というのは、選手にとって必ず良い経験になると思っています。だからJ2でも優勝して良かったと思っているし、これから先、タイトル争いをし続けるクラブになり、タイトルを獲り続けていくことで、またタイトルの重みを感じられたらと思います」
プロ11年目。クラブの未来を想い、若手の台頭を望みながらも、そう簡単にポジションを明け渡す気はない負けず嫌いな自分も確かにいる。
「毎日毎日、やり残したことがないように、後悔のないように、胸を張っていられるようなシーズンを送りたいですね」
“キャプテン”という重責を背負うことで、改めて仲間の大切さや支えてくれる人たちへの感謝を胸に刻んだ「背番号23」の背中が、今季もチームを牽引する。
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