今夏、藤枝MYFCへの育成型期限付き移籍から復帰した千葉寛汰選手のロングインタビュー。FWにケガ人が相次いだ状況で急遽復帰することとなったが、「予定より半年前倒しでJ1で活躍するチャンスと捉え、ポジティブな決断だった」という。エスパルス復帰後のリーグ2試合目にして、早速J1初ゴールをマーク。その背景にある、武者修行での成長を深堀りした。
6月26日公開/取材・文=平柳麻衣
計画どおりにキャリアを歩めている
――今夏、藤枝への育成型期限付き移籍から復帰し、前節名古屋戦で待望のJ1初ゴールを決めました。
「天皇杯も含めてここ3試合、あまりゴールのことを考えすぎず、とにかくチームのために走ること、チームに貢献することを第一にプレーしました。やっぱりゴールばかりを考えて視野が狭くなってしまうと、空回りするし、冷静にプレーできない。結局はチームのためにプレーできる選手のところにゴールは生まれるものなんだなと改めて学びました」
――その意識はどれぐらいのタイミングで芽生えたのですか。
「本当に最近です。藤枝では9番を背負っていましたし、正直、『俺が決めないと』という感覚で毎試合プレーしていて、なかなかチームが勝てなかったこともあり、『俺が決めないから勝てないんだ』とどんどん自分を追い込んでしまっていました。そうなるとプレーはどんどん悪くなるし、やっぱり点も取れない。もちろんそのプレッシャーの中で結果を出せなかったのは、自分の弱さもあったと思います。でも、だからこそエスパルスに帰ってきた時には、背負いすぎず冷静にプレーしようと決めていました。サポーターの皆さんからの期待は理解しつつも、自分の中では『別に誰も期待してないでしょ』ぐらいの気持ちでやるようにしようって」
――ある意味、今回の移籍がメンタル面を切り替えるきっかけになった、と?
「もちろん藤枝で責任を感じながら戦わせてもらったことはすごく大きな経験でしたし、自覚も芽生えて、成長につながったと思っています。でも、エスパルスには(北川)航也くんや(乾)貴士くんだったり、いろいろ背負いながらやってくれている先輩たちがたくさんいるから、自分は自分のやるべきことに集中しようって。去年エスパルスでリーグ戦に出場した時は、それができていなかったんですよ。エスパルスで活躍するという小さい頃からの夢が強すぎたあまり、その気持ちを良い方向に出せなかったというか、試合中、何か地に足がついていなくて、舞い上がってしまっているようなフワフワした感覚で。でも、(J1デビュー戦となった)ガンバ戦は1万6000人以上のお客さんが入ったアイスタでも平常心でプレーすることができて、自分でもびっくりしたし、それこそ藤枝で1年出続けた経験のおかげだなと思いました」
――試合に出続けることで自信や余裕を得られたのですね?
「そうですね。もちろんJ1の試合では余裕はないので毎試合、必死に戦っていますけど、変に高ぶったりせず、平常心でできているなと思います。とくに試合経験の部分は、こだわった移籍の選択をしてきたから、自分のキャリアを振り返った時、計画どおりに良い道筋を歩めているなと思うんですよ。J3からJ2、J1と徐々にステップアップして、プロ4年目でリーグ通算100試合出場も見えてきました(※取材時点で85試合)。都度しっかり自分を客観的に見て、軌道修正して、必要なものを突き詰められてきている感覚はあります。ここからはJ1で結果を出すこと。しっかり試合に絡み続けて、今季中に100試合出場を達成したいですね」
――J1初ゴールを決めたことで、心境に変化はありますか。
「FWの1点はすごく価値があるので、気持ち的には間違いなく楽になりましたね。あとは試合後のインタビューでも言いましたけど、自分自身もずっと待ちわびた瞬間だったから、すべてが報われたような感覚はありましたし、ここまで苦労したからこそ喜びはすごく大きかったです。どのゴールももちろん嬉しいですけど、大勝した中の1点だったり、大敗した中での1点とかではなく、チームの結果にダイレクトにつながるゴールが取れたことは良かったですし、今後につながっていくと思います」
泥臭いゴールは自分らしいし、すごく好き
――J1初ゴールを振り返っていただきたいのですが、得点につながったCKも千葉選手のプレーから獲得しました。
「沖(悠哉)くんのキックから抜け出した形でしたけど、対峙していた三國ケネディエブス選手は対人に強く、普通に競っても勝てないと思っていた中で、相手が競りに行こうとしたタイミングで先に身体をぶつけて相手のバランスを崩して上手く入れ替わることができ、そこから自分で運んでCKを獲得するところまで行けたのは、落ち着いてプレーの判断ができたかなと思います。シュートに関しては、まずボールがすごく良かったのと、藤枝で須藤(大輔)監督から、相手の一歩前に入り込むことを口酸っぱく言われ続けてきたので、その意識は頭の中にありました。ああいう泥臭いゴールは自分らしいし、すごく好きなので嬉しかったですね」
――決して簡単なシュートではなかったと思います。
「あのヘディングをあの形で飛ばす技術は、持ってないですよ(笑)。もうあれは“気持ち”だったと思っています。何とかして勝点を持って帰りたい、チームの力になりたいっていう、それだけ。自分自身、いい加減結果を出さないとっていう危機感や覚悟ももちろんありました」
――翌日には藤枝との静岡県J リーグ加盟4クラブ強化トレーニングマッチがありましたが、須藤監督とは何か会話をしましたか。
「挨拶に行ったときに少し話したんですけど、まず『藤枝で決めてくれよ』と(苦笑)。でも、『素晴らしいよ、よくやったな』とか、『このままスタメンを掴み取れ。お前なら絶対やれるから』と言ってもらいました。このゴールは藤枝で積み上げてきた日々の賜物ですし、須藤監督の教えが形になったものだと思っているので、その感謝を伝えられて良かったです」
――千葉選手から見た須藤監督はどんな人ですか。
「わかりやすいというか、『これをやらないと使わない』というのがはっきりしている監督だと思います。藤枝でなかなか点が取れずに苦しんでいた中、須藤監督自身もFW経験者なので俺の気持ちも分かってくれていたし、点が取れなくてもずっと期待して使ってくれました。だからその期待に応えられなくて申し訳なかった気持ちはあるし、チームのみんなの頑張りを勝利に繋げてあげられなくて悔しいという心残りもあります。ただ、先輩たちもみんな優しくて大好きですし、トータルして藤枝で過ごした期間は充実していたなと思います」
――藤枝でなかなか点が取れなかった要因として、どんなところに難しさを感じていましたか。
「守備だったり、ポストプレーだったり、いろいろなタスクをこなした上で点も決めなければいけないというところが一番難しかったですね。あとはシャドーをやることもあったので、本当にいろいろなものを身につけている最中でした。あとは点さえ取れれば……という感覚を掴みかけているタイミングでの移籍だったので、だからこそ心残りもありましたけど、今回のJ1初ゴールがそのきっかけになると思っています」
――藤枝で成長した部分はエスパルスのサッカーにも生かせると感じますか。
「そうですね。サッカーのやり方は違いますけど、選手としての基礎みたいなところは間違いなく積み上がってきているので、自信を持ってプレーできています。あとは、藤枝で苦労している間、航也くんのすごさというのは俺が一番感じていたと思います。あれだけハードワークしながら攻撃でもチャンスメイクして、ポストプレーもして、最後にゴール前に入って行って点も取る。エスパルスのFWは機動力があって守備ができて、その上で攻撃でも特徴を出せないと試合には出られないと思っています。ただ、自分は航也くんにはなれないし、なるつもりもない。最低限のタスクは絶対にこなした上で、自分の色を出していきたいと思っています」
――この機に、藤枝の方々に伝えたいことはありますか。
「リリースのコメントにも掲載していただきましたけど、まずはこのタイミングで、なかなか数字を残せずチームを離れた申し訳なさと、やりきれなかった悔しさはあります。でも、自分自身にとっての大きなチャンスを掴みにいくためにこの決断をして、今回の1点は間違いなく藤枝で1年間やってきた成果、ご褒美みたいなものだと思っています。これからも継続して活躍して、藤枝の皆さんに『うちが育てた選手』と誇らしく思ってもらえるように頑張っていきたいという気持ちです」
『コイツなら決めてくれる』という信頼を得ること
――千葉選手の“ストライカーとしての在り方”のようなものは、どのように培われてきたのですか。
「うーん……考えたことがなかったので、難しい質問ですね。もう気づいた時からずっとFWですし、点の取り方なんて、生まれ持った感覚? ……でも一つ言えるのは、これまで指導してくださった方々が点を取る楽しさを教えてくれたり、点を取るための動きを常に肯定し続けてくれたり、ゴールを意識付けるようなことをずっと言い続けてくれたおかげなのかなと思います」
――名古屋戦の試合後には平岡宏章(現アカデミーサブダイレクター)氏に声を掛けられていましたね。
「平岡さんはユースの1年生の時に指導を受けて、1年生ながらずっと期待して使ってくれました。それこそ自分のFWとしてのパーソナリティや得点力の部分を評価してくれて、そこを存分に出せるような環境を作ってくれたので、プロになれたのは平岡さんのおかげとも言えるぐらい影響を受けた方ですね」
――アカデミーの頃も「俺が点を決めなきゃ」と考えていたのですか。
「いや、その頃は何も考えていなかったです。それでも点が取れていたから。『この試合で絶対に決める』と思ったら、大体点が取れていましたからね。自分のイメージ通りに物事が進まなくなったのはプロになってから。みんなからどんどんパスが出てくるような、チームの中心になるのが難しいと感じます」
――どうしたらパスが出てくるようになると考えていますか。
「やっぱり結果を出すことだと思います。どれだけ言葉で要求するよりも、『コイツなら決めてくれる』という信頼を得ることが一番だし、それは積み上げて勝ち取っていくもの。すべてのプレーをレベルアップさせつつ、結局FWは点を取ることが一番の評価になるから、“一番点を取れる場所に自分がいる”という部分はなくさずにやっていきたいです」
――J1初ゴールの次に目指すものは?
「ユースの頃は点を取ることしかできなかったけど、プロになってそれ以外の部分を磨き続けた3年半。それはもちろん藤枝だけでなく今治、徳島でも。やっとJ1でスタートラインに立てたので、ここから2点、3点と継続していきたいし、やっぱりアイスタで点を取りたいですね。勝利につながるゴールも決めたいし、『コイツすげえ』と思われるぐらい爆発したいです。今はケガ人が出ている状況もあって出場機会をもらえていますけど、ケガ人が戻ってきても使ってもらえるようになって初めて“J1でも通用する”という感覚を得られると思います。クラブからの期待に応えたいし、自分自身もこのチャンスを掴みたい。まだまだ、ここからやってやりますよ」
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“勝負の6月”と位置づけた中、2試合目にして早速J1初ゴールという結果で応えてみせた千葉。試合後にはアカデミー時代から使用されている、本人も「気に入っている」という個人チャントをサポーターが歌ってくれた。それは、アカデミー時代から夢見た景色そのものだった。
しかし、これはまだ序章に過ぎない。「エスパルスで活躍するため」に武者修行を続けてきた千葉とともに紡いでいくエスパルスの歴史は、ここから始まる。
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