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【クローズアップ新加入】弓場将輝「プロ5年目の『プライドは捨てた』…強度が持ち味のボランチ。貪欲に夢を追いかける」

新加入選手をクローズアップしたロングインタビュー。第4弾は大分トリニータから完全移籍で加入した弓場将輝。「海外に行きたい」と夢を抱く22歳のボランチは、開幕から4試合メンバー外という苦境にも「落ち込んでいられない」と屈さず、日々の練習から120パーセントのアピールを続けている。


3月4日公開/取材・文=平柳麻衣


プライドを捨て、“大卒1年目”のような気持ちで

――シーズンが開幕しましたが、ここまではメンバー外が続いています。率直な心境を聞かせていただけますか。

「開幕までのパフォーマンスを振り返ってみて、正直、自分で感じている手応えと、試合で使われるという意味での評価にはギャップがあるなと感じています。プロ5年目でそろそろJ通算100試合も見えてきたってところで、練習試合やキャンプでも調子は良かったですし、開幕戦なんかは『これ結構きついな』と思いながら観ていました。でも、挫折と言っていいか分からないですけど、壁に当たったと思って、今の自分にできることを120パーセントやればいいというメンタルにシフトチェンジしようと。プライドは捨てて、これまでのプロ4年間の記憶も消して、“大卒1年目”のような気持ちで日々取り組んでいるところです」


――上手く気持ちを切り替えられた要因は何だと思いますか。

「時間もそうですけど、もうここから這い上がるだけなので。あとはシンプルに、やっぱりサッカーをやっている時が一番楽しいから、ですかね。落ち込みやすいので多少はヘコみますけど、切り替えることもできます。そこはやっぱり、これまでのプロ4年間の経験のおかげ。高卒1年目はカップ戦しか出られなかったですけど、リーグ戦に出るために毎日必死になってやっていました。だから“初心を思い出す”ではないけど、今もその頃のような気持ち。ただ、気持ちは“ルーキー”ですけど、年下の選手たちと一緒に練習する機会も多いので、そこで年上の僕が諦めたり、だらしない姿を見せるのはカッコ悪いし、しっかり先輩としての姿勢を見せたり、やらないといけないという雰囲気づくりをしていって、チームの底上げに繋がっていけばと思っています」


――まだシーズンは開幕したばかりです。今シーズンを長い目で見て、どんなプランを立てていますか。

「去年のエスパルスのように何連勝もできたらベストですけど、J1なのでまずは連勝することすら難しいというのは全員が分かっていると思います。もしチームが上手くいかない状況になった時に、スッと出てきてチームの力になれたらなと。いつそういうタイミングが来るか分からないからこそ、チャンスが来た時にしっかり掴めるように、日々良い準備をするというメンタルでいます」


――素晴らしいメンタルだと思います。

「もうこれはね、言い聞かせるしかないです。洗脳というか、自分にひたすら言い聞かせて、叩き込んでいくしかない」


――それだけ自信も持っているのではないでしょうか。

「そうですね。正直、僕の中では試合に全く絡めないほど力の差があるとは思ってないですし、なんなら俺の方がいいだろうっていうぐらいの自信を持って毎日やっているので。選ばれるか選ばれないかの部分は、自分の特徴が“今は”チームに必要ないと判断されていると思うだけです」


――自分の強みはどこにあると認識していますか。

「他の選手には他の良さがある中で、自分が自信を持っているのは、点を取るところもそうだし、あとは強度。練習試合の時などに測るデータを見ても、強度の部分は僕が一番出せているので、そこにはすごく自信があります」


勝ったらボランチのおかげ、負けたらボランチの責任

――大分時代を振り返ると、片野坂知宏監督と下平隆宏監督の指導を受けていますね。

「僕が大分にいた4年間はカタさん、シモさん、シモさん、カタさんですね。カタさんのサッカーは、立ち位置などの決まり事が結構しっかりしていました。ただ、当時は結果が出なかったので、カタさんも悩んで悩んで、切羽詰まってるなというのは一緒にやっていて感じました。逆にシモさんは、それこそ秋葉(忠宏)監督のように選手に自由にやっていいよという監督。ただ、シモさんもボランチ経験者なので、ボランチには厳しかったです。勝ったらボランチのおかげ、負けたらボランチの責任だって」


――弓場選手としては、どちらのタイプのほうがやりやすさを感じますか。

「シモさんの時のほうがチームとして結果が出たというのも大きいですけど、僕としてはあまり決まり事をきっちり遂行するよりは、自分で考えながらやるほうが向いているのかなと感じていました。そのほうがやっぱり楽しいですし」


――大分のアカデミー出身ですが、“大分育ちらしさ”はどんなところに表れていると思いますか。

「アカデミーで一番鍛えられたのはメンタルの部分ですね。僕らがいた頃は『フィジカルの日』という、めっちゃ走らされるだけの日があったんですよ。高体連並みに精神的にも肉体的にも鍛えられました。サッカー的にはボールを大事にするので、ストライカーよりも清武(弘嗣)くんであったりとか、中盤の選手のほうがプロに上がっている印象があります」


――弓場選手は何を強みにしてプロになれたと思っていますか。

「高3の時は普通に技術で通用していたし、それでトップチームに上がれたと思っていたんですけど、プロに入ったら上手いだけでは何も通用しないし、トップでは周りが上手すぎて自分は全然上手くないなと痛感しました。僕と同じポジションにいたのが下田北斗くんや小林裕紀くん、エドゥアルド・ネット、長谷川雄志くんとかで、その選手たちが持っていない部分をストロングにして勝負しようと考えた時に、上手さよりも強度が必要だなと思ったんです。で、フィジカルコーチに『強度を出せるようなメニューをください』とお願いして、1年半ぐらい地道に自主練を積みました。僕は足が速いほうではないので、重たい物を持つのではなく、軽めの物を瞬発的に動かすようなメニューが多かったですね。


2022年にシモさんが監督に就任して、最初10試合ぐらいは出場できなかったんですけど、チームもなかなか波に乗れていない状況で、シモさんも守備系のボランチだったので強度が欲しいとなって僕が抜擢され、千葉戦(J2第13節)で先発出場して3-0で勝つことができました。それ以降、試合に絡めて最終的には5位でプレーオフに進出できましたし、個人としてもそこから人生が変わったと思っています」


――その千葉戦ではフィジカルトレーニングの効果を感じられたのですか。

「緊張はしましたけど、強度の部分ではやれるなと感じましたね。もともと足がつりやすいタイプで、千葉戦でもつってしまったんですけどフル出場できましたし、試合に出るに連れて慣れていって足がつることもなくなって、今は身体が出来上がってきた感覚があります。瞬発系のトレーニングの必要性に気づいたのがプロ1年目の途中ぐらいで、今、上半身についている筋肉はそれ以前の蓄えです。瞬発系を意識し始めてからは、なるべく上半身は重くならないように気をつけています」


――自分に足りないものに気づいてから行動に移すまでが早いですね。

「生まれ持ったものなのか分からないですけど、切り替えが早いのは自分の良いところだと思っています。たとえ自分のミスで失点しても10分後には忘れられますし、『ミスなんて、どうせ明日になったら誰も覚えてない』ぐらいのメンタルでいたほうが、良いプレーができる気がします」


今が自立するべき時

――そもそもボランチになったきっかけは?

「元々は左利きでサイドバックをやっていたんですけど、中学3年の時に他のサイドバックの選手がいて、ボランチがいなかったので、『やってみろよ』と言われたのがきっかけです」


――どんなボランチが理想ですか。

「僕は結構動きたいタイプですけど、周りの選手の特徴や状況を見て、どちらでも。後ろが余裕を持ってボールを出せる選手なら僕がスッと前に入りますけど、出し入れが得意ではないタイプだったら、僕が止まって受けるのも全然できますし。ただ理想としては、強度があって、ボールを奪えて、その上で前に絡んで点が取れるというのが僕のボランチとしてのモットーですね」


――お手本にしている選手はいますか。

「遠藤航選手や守田英正選手は今の日本のトップだと思うので、あれぐらいになりたいなと思っています。とくに遠藤航選手は今、リヴァプールでなかなか試合に出られていないですけど、苦しい状況から逃げない、強い人だなと思いますし、なんか今の自分とリンクするものがあるんじゃないかなって。試合終盤からでも出場したら自分の立場を理解して、役割をちゃんと遂行できるってすごいなと思います。実は僕が高校2年の時、遠藤選手がシュツットガルトへ移籍する1週間前に30分だけ対談の時間を設けてもらい、直接お話しさせていただいた、という縁もあります」


――今季より完全移籍で加入しましたが、アカデミーから育った大分を離れる決断は簡単ではなかったと思います。

「大分にはめっちゃ愛着がありますし、静岡に来る時も寂しかったですけど、離れてなお寂しいというか……あのお店のご飯食べたいなとか、実家に帰りたいな、なんて思う時もあります。移籍するかもって考え始めた時から週1ぐらいで実家に帰るようにしてご飯を作ってもらったりもしていたので、それが当たり前じゃなくなった寂しさはありますけど、裏を返せば今が自立するべき時なのかなと思いますね。それこそ“大卒ルーキー”じゃないですけど」


――やはりJ1でプレーしたいというのが移籍の大きな理由ですか。

「そのとおりです。実はJ2のクラブからもオファーをいただいていて、期限までにJ1からのオファーがなければ行きますと伝えていました。そうしたら期限最終日の前日ぐらいにエスパルスからオファーが来て、即答で移籍を決めました。だから先にオファーをくれていたチームのことも考えたら、今ぐらいの小さいことで落ち込んでいられないんですよ。僕は前向きに頑張るだけです」


――この先にはどんなキャリアプランを思い描いていますか。

「J1で結果を出して、海外に行きたいです。聞いた話だと、エスパルスからヨーロッパに行ったボランチの選手ってあまりいないですよね。自分が海外で活躍することで、今まで在籍してきたチームの価値が上がると思うので、そういった形で恩を返せたらとも思います。僕はプレミアリーグに行きたいので、三笘薫選手のブライトンや岡崎慎司さんがいた頃のレスターのように、ビッグクラブを倒していきたいです。そのためにも今はエスパルスで踏ん張って、やれるだけのことはやりたいと思っています」


――最後に、エスパルスサポーターの印象を聞かせてください。

「『ユニフォームを買いました』というメッセージをいただいたり、すごく期待してもらっているのは感じるので、今、試合に絡めていないことに焦りや申し訳なさは感じています。期待してもらっている分、まずは試合に出ないといけないと思いますし、去年までは対戦相手として体感していたエスパルスサポーターの応援を、これからは味方としてピッチの上で、肌で感じたいです」


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今回のインタビューを実施したのは2月下旬。弓場が「気持ちを切り替えられた」のは取材2日前ぐらいだったという。


「大卒ルーキーのつもりで」とひたむきにサッカーと向き合う弓場の表情は、新社会人のようにフレッシュで、成長に貪欲だ。一方で、4年間プロの厳しい世界で揉まれてきた実績と確かな自信もある。


大好きなサッカーをするなら、ポジティブに。弓場は、自身の力が必要とされる時が必ず訪れると信じている。


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