トレーニングレポート
キャンプ最終日となった2月1日は、白波スタジアムに移動し、同じく鹿児島市内でキャンプを行っているジュビロ磐田とのトレーニングマッチ(45分×4本予定)に臨んだ。
「まだいろいろな組み合わせを見ている段階」(秋葉忠宏監督)の中で、1本目のメンバーにはプロ2年目の猪越優惟や新加入のカピシャーバ、中原輝らが名を連ね、1トップにはドウグラス タンキが入った。立ち上がりこそ磐田ペースでゲームが進んでいったものの、33分に迎えたピンチは猪越が好セーブで弾き出す。そして40分、中原のシュートから得た右CKで中原が精度の高い左足キックを繰り出すと、タンキが頭で合わせて先制に成功した。
2本目は、GKが猪越から梅田透吾に代わった以外は1本目と同じメンバーでキックオフ。開始早々の6分、乾貴士からのパスを受けた高木践が右クロスを送ると、タンキが力強いヘディングシュートでこの日2得点目をマークした。
ところがその直後、大きな雷音が鳴り響き、選手たちは一斉に退避。このまま2本目の中止が決定した。雨脚が強まる中、3、4本目に出場予定のメンバーは試合再開に備えて準備をしていたが、ピッチコンディションを考慮し、中止の判断が下された。キャンプの締めくくりとしては不完全燃焼となってしまったものの、秋葉監督は「雷も鳴っていたし、観に来てくれたお客さんも含めて無事に終われたことが何より」とポジティブに総括した。
新加入選手だけでなく、昨年も秋葉体制でのキャンプを経験している選手たちまでも「きつい」「しんどい」「つらい」と漏らすほど、体力的に追い込んだ10日間。しかし、J1で戦っていくためには、「去年と同じではダメ」という共通認識がチームに良い緊張感をもたらし、選手間に一体感を生み出していた。
また、秋葉体制は3年目を迎え、「僕らはもう秋葉さんがやりたいことは分かっているので、そこに新加入選手の長所を加えていくこと」(山原怜音)と、新戦力と既存戦力の融合に多くの時間が割かれた。紅白戦やトレーニングマッチでは、タンキや宇野禅斗、高木践、矢島慎也、松崎快らが奮起し、中原やカピシャーバ、小塚和季らは各々の個性を存分に発揮して躍動する姿が見られた。吉田豊は「チーム全体として1年間こうやって戦っていこうとベースになるものをしっかり落とし込むことができた」と手応えを口にした。
一方で、済州SK FC戦、磐田戦ともに立ち上がりのゲーム運びが課題に挙がった。両試合とも「ピッチ外からの声ではなく、自分たちで修正してできたのは良かった」(蓮川壮大)とピッチ内で修正できたことはプラスに捉えられるが、「良くない時間帯はもっと短くできたと思うし、あの時間帯に失点していたら逆の展開になっていた可能性もある」と中原は指摘した。宇野は「ゲームの入りの流れを掴む“何か”が必要」と述べており、より隙のないチームへ仕上げていく必要があることも選手たちは理解している。
2日間のオフを挟んだ後は、三保グラウンドに戻り、2週間後のリーグ開幕に向けて調整を行っていく。「(J1相手に)“どれだけできるか”という意識ではなく、どこが相手でもできるようにする」(松崎)。3シーズンぶりのJ1舞台へ、心身ともに万全を期す。
監督・選手コメント
秋葉忠宏監督
中止となったことはもちろん残念だったが、天候ばかりは我々の力が及ぶところではないので、雷ということもあったし、観に来てくれたお客さんも含めて無事に終われたことが何より。
最初はプレッシングのところが少しハマらなかったが、中で選手たちが自主的に改善していって、前半、セットプレーからしっかりと点が取れ、ハーフタイムに修正した中で後半の早い時間にまた良いプレッシングから点を取ったことは非常に素晴らしかった。その修正能力や自立したプロフットボーラーとして自分たちで修正してくれるという、大人のフットボールを見せてくれたと思う。
(キャンプ全体を振り返って)まずは今までやってきたことをブラッシュアップすること。1年間戦うだけのフィジカルや走力、フィットネス、それが去年のままでいいとは思っていないので、昨年以上に走り込んだし、昨年以上に厳しいトレーニングをした。疲れていている中でどうクオリティを出すのか、プラスして新戦力とどう融合するのか。組み合わせをどうするのか。いろいろなことを試せたし、実りのある素晴らしいキャンプになった。
いつも言っているように現状維持は衰退だと思っているので、常に進化すること、レベルアップすること。「これでいい」ということは現役を終えるまで絶対にないものだが、究極のパーフェクトを目指しながらやるのがアスリートだし、プロだと思う。そこにまた全員でチャレンジしていきたい。
(開幕に向けて)試合の立ち上がりのところやプレッシングがハマらない時間をどう短くするか。大変なのはゲームの最後の部分だと思うので、そこでどう結果を出せるか。交代選手も含めて大事になってくる。そこが(試合中止になったことで)収穫も課題も見られなかったことが唯一残念なこと。今までにないぐらい厳しいキャンプをした中で、けが人もほとんど出ることなく、ポジティブな空気感がずっと10日間流れていた。これが今後1年間、良いときも悪いときもある中でいかに浮き沈むを小さくし、全員が矢印を前に向けられるかだと思っている。そういう集団になりつつあると思っているし、去年我々は成功体験を得ているので、今度はそれをJ1の舞台で存分に発揮したい。
乾貴士選手
今年もきつかったし、しんどかったが、コンディションをしっかり作れたキャンプになった。キャンプはこういうものだと思っている。
(磐田戦を振り返って)まだまだ。良いところももちろんあったが、最初はボールを握られすぎたので、自分たちでもう少しペースを持たないといけないし、ボールを持たれても握り返さないといけない。もっとピッチの中で話し合いながらやっていく必要がある。ただ、ピッチの中で話せる選手が多いので、少しずつ改善はされていると思う。
ここから開幕に向けてしっかりコンディションを整え、ケガなくやっていきたい。
吉田豊選手
個人としてはケガなく10日間のキャンプを終えられたことが一番。キャンプもそうだがその前からハードなトレーニングをしてフィジカル面を上げている中で、ここまではケガなくできている。チームとしてやるべきこと、やりたいことについても、戦術や新加入選手の長所、短所含めて理解が深まったことも良かった。
(今季筋トレに力を入れている理由)今年36歳になる年、プロ18年目になって、今までは筋トレをせずナチュラルなままでというのも自分の中にはあったが、さらに良くなることを想定してやっている。それで自分の理想にたどり着けなければまた変化が必要になるが、今年は何か変化させたいと思って始めた。まだまだ身体つきやピッチの中でのプレーで良し悪しが出るところまではないが、新たな挑戦なのでケガには十分に気をつけながら継続的にやっていきたいと思っている。
(チームとしてキャンプの収穫)チーム全体として1年間こうやって戦っていこうとベースになるものをしっかり落とし込むことができた。練習試合でも結果を出せているが、準備してきたものにもっともっとチャレンジしていかないと、1年間をとおして自分たちのサッカーで勝ち抜くのはなかなか難しい。よく「形にとらわれない」などと言うが、どう攻めてどう崩すか、どう守るか、どうボールを前に運ぶか。そういった細かいところをチーム全体でしっかりと合わせていく必要がある。課題はまだたくさんあるが、できている部分もあるのは良いことなので、開幕までにしっかりやっていきたい。
ドウグラスタンキ選手
ゴールを決められて本当に嬉しかったし、私にとっては初めての“静岡ダービー”で、2得点でチームに貢献できたことが非常に嬉しい。厳しいトレーニングを積んできたのが報われた感じがした。ただ、これからもっと良くしていかなければいけないし、エスパルスのユニフォームを着ている以上、その責任感を持ってもっともっと結果を出して、素敵な静岡の街の皆さんに喜びを届けられたらと思う。
1点目は中原選手が非常に精度の高いキックを持っていて、彼が蹴ったポイントに入ることができた。彼もアシストという形になって良かったと思う。2点目はプレッシャーがかかっている中で乾選手がプレッシャーを回避し、高木選手へ良いボールを出し、私も良いポジションにちょうど入ることができてゴールを決められた。
開幕まで残り2週間、これまでやってきたことをやり続けて、フィジカル面もチーム全体としても良くしていきたい。監督が言う修正ポイントも改善して、良い形で開幕を迎えられたらと思う。
(始動から調子がいい要因は)去年は途中合流でなかなかチームと連携が取れなかったが、今年はスタートからみんなと一緒に練習ができているし、コミュニケーションのところもお互いどんな質のボールがいいのか、どこのポジションに入っていけばいいのかなど、細かいところまで突き詰めてできている。これを続けつつ、コンビネーションももっと良くして良い開幕を迎えたい。
中原輝選手
立ち上がりはボールを持たれて苦しい時間帯もあったが、チームとして耐えるところは耐えて、自分たちの時間に戻したり、セットプレーで点を取れたのは一つチームとして良かった。プレスのはめ方を変えて、そこからボールを取り切れるようになって良い攻撃に繋げられたと思う。役割をはっきりさせて、人に対して誰が行くのかを確認した。
(アシストのシーンは)その前にもあそこのスペースに践が落ちたり、あそこのポイントがいけるかなという感覚があった。上手くタンキ選手が入ってくれて良かったと思う。昨日のセットプレー練習でもタンキは決めていたし、今日も決めてくれたので、これからもっと本数を増やして得点に繋げられればいい。
攻撃の時の枚数や迫力はチームとして求められている。そこは今日のゲームで出せていたと思う。一方で、立ち上がりの良くない時間帯はもっと短くできたと思うし、あの時間帯に失点していたら逆の展開になっていた可能性もあるので、試合の入り方はすごく大事だと思う。
(キャンプを総括して)ゲームや戦術練習も増えて、チームとしてやるべきことは理解できたし、選手間の連携やどういうプレーができるかは把握できてきた。ここからもっと良くなっていくと思う。
蓮川壮大選手
守備のところはマンツーマンだったり相手のやり方に合わせてやれた。それをピッチ外からの声ではなく自分たちで修正してできたのは良かったと思う。みんなでどういう守り方、どういう攻撃が一番良いかをピッチ内で感じながらできているし、それが一番早い解決方法だと思う。今日の試合もそうだし、前のTRMも自分たちで修正できたのは良かった点の一つ。
個々のレベルアップもそうだが、チームとしても新加入選手の良さを上手くかみ合わせることができたキャンプ期間だったと思う。それをこれから結果で出せるようにしていきたい。
(静岡に戻ってから意識したいこと)最後の質のところと守るところはJ1になって去年よりレベルが上がると思うので、そこはこだわってやっていきたい。
高木践選手
今年から本格的に右サイドバックをやらせてもらっているが、本当にまだまだだなという印象を持っている。センターバックにはない前後の運動量であったりクロスを上げるところ、積極的な攻撃参加などは初めての経験で、このキャンプで少しでも良くなっていたらと思う。
(アシストのシーンは)貴士くんが個人技で前を向いた時に走ったら出てくるなと分かった。本当に素晴らしいボールが来て、中を見たらタンキ選手がいたので、クロスはあまり得意ではないが、良いところに当たって、決めてくれて良かった。クロスは練習でも全然思ったところにいかない。でも、練習してたからこそあの1本が良いクロスになったと思うので、練習して良かったと思う。
(セットプレーではターゲットにもなっていたが)ヘディングには自信があるし、セットプレーは常に狙っているので、輝くんからすごく良いコーナーキックが上がってきた。ああいうところを決められる選手になっていきたい。
新加入選手も多い中で、チームとして目指すスタイルがこのキャンプでまとまってきた感覚があるし、セットプレーや後ろからのビルドアップなどはできてきているのかなと思う。また、前線にはタンキ選手、カピシャーバ選手と強い選手がいるので、ゴールキックから前に蹴って収めるシーンが自分たちの強みになっていくと思うし、そこから攻撃を展開していけたらと思う。
宇野禅斗選手
天候が難しかった中で、前半の最初のほうはジュビロさんの動かし方が上手く、苦しんだ時間もあった。それでも自分たちで守備の掛け方を変えてからはすごく良い流れで試合ができていたと思う。ピンチもありながら最後は身体を張って守れていたし、無失点というところが重要だったと思う。あとは、J1になったらセットプレーが重要になるという話を最近ずっとしていた中でセットプレーから点が取れたことも大きかったし、点を取った後の流れも掴んで前半を終われたのは良かった。
(前回のTRMもそうだったが、ピッチ内での修正力が上がってきていると感じるか)そうですね。全員が今上手くいってないなと感じながら、認識を揃えることができているので、どう変化させていくかも全員で話しながら共有して実行することができている。それは本当にすごくポジティブなことではあるが、前半の最初から試合の流れを掴んでいくことも絶対に必要になってくるので、入りの流れを掴む“何か”が必要だと思う部分もある。
(個人としてキャンプを振り返って)プロ4年目だが、今までで一番良いキャンプができたと個人的には思っている。ケガもせず終えられたし、ゲームにもコンスタントに関わることができた。疲労もある中で「今日の自分ダメだな」みたいな日もあったが、それがキャンプだと思うで、手応えはすごく感じている。
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