2025シーズン開幕直前特集!今回は沖悠哉選手の【STORY】をお届けします。
2月12日公開/取材・文=平柳麻衣
「おはようございます!◯◯さん」「お疲れ様です!◯◯さん」
声を掛ける相手の名前を呼びながら、丁寧に挨拶する沖悠哉の姿は昨季と変わらない。
しかし、昨季と変わった点もある。
GK陣は最年長だった権田修一が退団、新たに高卒ルーキーの佐々木智太郎が加入。沖は25歳にしてチーム内のGK最年長選手となった。
「遅かれ早かれ自分が年上になることはいつかあると思っていたし、みんなのことを信頼しているから、そんなに意識はしていません。ただ、昨季よりもう少し気を配らないといけない立場にはなったのかなと思います。自分としては、そういう立場も楽しみながらやれればいいかなと思っているけど。
昨季に引き続き副キャプテンにもなりましたけど、自分のやることは変わらない。自分が若い頃、年上の選手たちがピッチで必死になってやる姿を見てきたように、『あの人がやっているんだから俺も頑張らなきゃ』と周りに思わせるぐらいの熱量を持って取り組んでいくだけです」
やっぱり練習は裏切らない
「より上を目指すため、新たな環境で挑戦したかったから」と昨季、鹿島から完全移籍で加入した。だが、移籍後のデビュー戦は悔しい記憶として刻まれた。敵地に乗り込んで臨んだ富山とのルヴァンカップ初戦。延長戦も含め120分を無失点に抑え、PK戦では1本セーブを見せるも、自身のキックが阻まれたことにより敗退が決定した。沖は大雨の中で悔し涙を流し、梅田透吾や古川正明GKコーチに支えられピッチを後にした。
しかし、試合からわずか2日後、沖はさっぱりとした表情で取材に応じた。
「相当気持ちを込めてエスパルスに来て、初めての試合だったので、自分のプレースタイルや特徴をピッチで表現したいという気持ちが強くありましたし、自分の存在を示すには勝つことが一番だと思っていました。PKは運だと言われがちだけど、この結果はしっかり受け入れて前に進まなければいけない。今までの日々の練習を雑に取り組んでいたわけではないし、そこに対する後悔はないけど、それでもやっぱり何かが足りなかったということ。ただ、ここで立ち止まるわけにはいかないし、ここからを楽しみにしていてください」
それ以降も沖は日々、ハードなトレーニングに打ち込んでいった。GK陣は毎日居残り練習をしているだけでなく、ほぼ毎週2部練習の日を設けている。沖は「練習量はプロになってから一番多い。おかげで身体は相当強くなったし、ベースが上がってきた」と次第に練習の成果を実感できるようになっていった。
ただ、「練習のキツさと試合のキツさは全く別物」なのがGKの難しいところでもあるという。
「GKはフィールドと違ってたくさん走った分だけ体力がつくとか、そういうわけではないですからね。でも、たくさん練習するということは、あらゆるシチュエーションの練習をするということ。やっぱり練習は裏切らないと思っています。プレーの引き出しはできるだけ多く持っておいたほうがいいし、それが試合での自信につながっていくと思うので」
チームでの練習に加え、沖は鹿島時代から朝の自主練も取り入れているという。「やっぱり試合に出るためにはその場しのぎでやっていてもダメだから、未来につながるような動きだったり、練習内容も日々アップデートしながらやっています」
どれだけ練習を重ねても、たった一つしかポジションがないGKにおいて、出場機会が巡ってくるのは簡単なことではない。
「それを分かってサッカー選手をやっているところもあるから。次にチャンスが来るのが今年なのか、それとも来年、再来年、何年後なのか分からないけど、いつか『あの時の経験があったから』と思えるように今を過ごしていきたい。結構、俺はしぶといよ。試合に出られなくてもやり続けるし、出ていてもやり続ける。勝っても負けてもやり続ける。でも、矛盾してしまうけど、結果は追い求めながらも、『これでサッカー人生が終わるわけじゃない』と割り切れる部分も持ってる。そうじゃないと、メンタルがつぶれてしまうからね」
できるだけポジティブな言葉を
GKとして、沖が大事にしていることがある。それは、ポジティブな空気感をつくり出すことだ。練習試合ではピッチ内の声がよく聞こえるため、沖がいかにポジティブな言葉でチームメイトを鼓舞しているかがよく分かる。
「例えばフィールドの選手にもう少しプレスに行ってほしい時、『もっと行けよ』と強い言葉で言うのも、試合を引き締めたい時には一つの手だと思います。でも、まずは『いいよ、いいよ』と肯定してから『もう少しプレス行って』という声掛けをしたら、自分が言葉を受け取る側だったら『もっと頑張ろう』という気持ちになれると思う。だから、僕はできるだけポジティブな言葉を掛けるように意識しています。
振る舞いについても、鹿島時代に上田綺世くんに相談したことがあるんですけど、キーパーがビッグセーブをした時、淡々としているか、ディフェンスの選手を怒るか、自分がガッツポーズをするか、どれが一番チームにとって良いと思う?って。淡々とやるキーパーもカッコいいし、守備が上手くいっていないならDFを怒るのも確かに大事で、結局は状況に応じて使いこなすのが一番良いんですけど、綺世くんには『ガッツポーズをしたほうがチームもサポーターも士気が上がるんじゃない?』と言われて、振る舞い一つも意識するようにしています」
2024年10月27日。昇格の懸かったアウェイ栃木戦で、沖に出場機会が巡ってきた。ピンチの場面もあったが、1−0の完封勝利に貢献し、J1昇格が決定。続くホームいわき戦でも先発出場し、見事クリーンシートでJ2優勝決定試合のマン・オブ・ザ・マッチに選出された。
「やっぱり試合は楽しいし。あっという間に終わるなと思いました。たぶんピッチに立っている選手よりも、観る側のほうが緊張するものですよ。ここまで積み重ねてきてくれたのは権田(修一)さんであったり、試合に出てきた選手みんなであって、僕はそこに乗っかっただけですけど、試合が終わって選手、スタッフ、サポーターのみんなの表情を見て、ホッとしたところはあります。それに改めて家族や親戚、親友の(加藤)拓己であったり、一緒に長い時間を過ごしてきたチームメイトやスタッフみんなに感謝の気持ちを持ちたいと思いました。僕がこういうことを言うと、すぐ“くさい”って言われちゃうんですけどね(笑)」
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幼少期から鹿島一筋で育ってきた沖にとって、エスパルスで迎える2度目のリーグ開幕が間もなく訪れる。
「自分にはもっともっと上に行きたいという欲があって、その中で昨季エスパルスがオファーを出してくれて、まずはここでしっかり結果を残していくことがこのチームへの恩返しだと思っています。チームが今季J1で10位以内を掲げている中で、なるべく早く残留を決めて、10位以内を目指していく。でも、矛盾してしまうけど、やるからには優勝を目指したい。どんなに難しい状況であっても諦めることはないし、どんな状況になっても戦い続けたいと思っています。
エスパルスは昨季J2でタイトルを獲ったけど、一つタイトルを獲ったからといってすべてが正解とは思わないし、10回獲ったら10回分の過程がある。だから、あれを噛みしめるまで模索し続けなければいけないと思います。鹿島の選手が『タイトルを獲ると、またタイトルが獲りたくなる』とよく言っていたように、J2の優勝でもサポーターの方々はあんなに喜んでくれて、やっぱりタイトルっていいなと思いました。それがまた次への原動力になるから、リーグでもカップ戦でもタイトルを獲って、また喜びを噛みしめたいですね」
そのために沖は「チームを勝たせられるGK」を目指して、これからも鍛錬を重ねていく。この一瞬にすべてをかけて――。
「サッカー選手をやっていくうえでの理想像はチームを勝たせられるGKになること。失点しないで勝つのが究極だけど、もし失点したとしても逆転できたり、ゲームメイクとまでは言わないまでも、やっぱりGKはゲームの流れが一番分かるポジションなので、自分の感覚を大事にしながら取り組んでいきたいなと思います。
もちろん試合に出ることが目標だけど、結局は今の積み重ね。今この瞬間を大事にしてやり続けた先に何かがあると思っている。だから、今を頑張ります」
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