日々の競争、陰での努力、悩み、葛藤……選手一人ひとりの物語を追ったコンテンツ【STORY】。今回は高木践選手編です。
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2月24日配信/取材・文=平柳麻衣
味方から長いボールが出てくるたびにサイドを駆け上がり、攻撃が終われば最終ラインまで戻る。上下動を何度も繰り返した高木践は、試合後、疲労感を漂わせながら本音を漏らした。
「きつい……マジできつい。右サイドばっかりあんなにボールが出てくるなんて……」
1月20日、今季3試合目のトレーニングマッチ。“サイドバックの高木践”としての新たな挑戦が始まって間もない頃のことだった。
言われるうちが華やと思って
遡ること1年前の2月中旬。リーグ開幕を目前に控えチームの士気が高まる中で、阪南大から加入したプロ1年目の高木は思い悩んでいた。
「自分はこういう感じなので、あまり悩まないように見えるかもしれないですけど、いろいろ思う部分はあって……。一番は気持ちのコントロールの部分ですね。始動してからキャンプ中もずっとですけど、結構悩んでて。高校、大学時代を振り返った時、サッカーに対して周りから強く指摘されたことがあまりなかったんです。でもいざプロの世界に入って、やっぱり先輩やスタッフからいろいろなことを要求されるんですよ。パスの質、綺麗さ、強さ。一つひとつの細かな部分が全然足りていないから。始動を迎えるまでの身体の準備も足りていなかったと思います。とにかくいろんなことを言われるから、もう頭の中がぐちゃぐちゃになって、何が正しい、何が正しくないかも分からんくなってしまって……」
前年にJFA・Jリーグ特別指定選手としてすでにJリーグデビューを果たしており、周囲は即戦力として期待を注いでくる。自身の中にも「大卒なので、高卒よりは求められることも多いと思うし、公式戦も経験させてもらっているので、新人という意識はあまりなくて。だからこそ『自分はもっとできるはずなのに』という気持ちもあった」と、理想と現実とのギャップがあった。
「でも、言われるうちが華やと思ってるんで、もし言われなくなったら見捨てられているということ。言われたことはありがたく受け止めて、先輩方に相談しながらちゃんと自分の頭の中を整理してやっていきたいです」
プロとしての公式戦初出場は4月24日のルヴァンカップ富山戦。しかし、チームはPK戦の末に初戦敗退を喫した。
「今の自分のままではリーグ戦のメンバーには入れない」
サッカーを始めた頃から、メンバー外どころかスタメン落ちもほとんど経験しないままプロの世界に入った。苦悩する高木に声を掛け続けてくれたのが、面倒見の良い先輩たちだった。
「全然試合に絡めていない状況でも、テルくん(原輝綺)やシラくん(白崎凌兵)とかが自分に足りない部分をアドバイスしてくれたり、練習や練習試合でできたことに対しては評価してくれたり、自分の成長のためになる話をいろいろしてくれたり。よく言ってくれたのは、『今試合に出られなくても、おまえには能力があるし、今やっていることは絶対将来に生きてくるから』って。そう言ってくださって嬉しかったし、『もっと成長したい』と自分の心をキープできました。そのおかげでだんだんリーグ戦にも絡めるようになっていったと思っているので、先輩方には感謝しかないです」
絶対に必要だと思われるような選手になりたい
高木は気になったことや分からないことがあれば、すぐに先輩の意見を聞き、何が重要なのかを自分の中で整理する、という習慣をつけた。なかでも原は「俺の若い頃によく似てる」と言ってピッチ内外で面倒を見てくれた先輩だ。
「自分はどうしても身体能力だけでサッカーをしてると思われてしまうので、ポジショニングの部分とかで『もっと頭を使え』とよく言われました。本当に尊敬している先輩ですし、この2年間、近くでプレーを見させてもらって、自分もプロとして生き残っていくためにはテルくんのようなプレーができるようにならないといけないんだろうと感じたし、人柄も含めてああいう人になりたい。エスパルスの中で絶対に必要だと思われるような選手になりたいと思いました」
プロに入るまではセンターバックを主戦場としてやってきた。しかし、プロの舞台でセンターバックとして屈強なFW陣と対峙したり、トレーニングの中でサイドバックやウイングバックも経験するうちに、自分をより生かせる術を考えるようになった。
「この身長なので、やはり試合になるとセンターバックではどうしても限界を感じるというか、今は何とか対応できているけど、これ以上伸びるかと言ったら結構厳しいと感じていました。自分はもっと成長したいので、伸びしろがあるのはどっちかと考えたら、センターバックよりもサイドバック。だったらもうメインはサイドと言われるぐらいの選手になりたいなと。そう思うようになってからは、(山原)怜音くんのボールの持ち出し方や(吉田)豊さんの守備の仕方などをよく見て学びながら、サイドの選手になれるよう着々と準備してきました」
そしてプロ2年目を迎えるにあたって、「チームに『センターバックで使ってくれてもいいですけど、僕はサイドバックで勝負したいです』と伝えました」。サイドバックへの本格転向とともに、「自分にプレッシャーをかけたかったから」と背番号を原から継いだ70番に変更した。
センターバックとしてやってきた経験を生かせている
2月16日、待ちに待ったJ1開幕戦。右サイドバックとしてスタメンに名を連ねた高木は、蓮川壮大からのロングボールに抜け出し、正確なクロスを送って北川航也の決勝ゴールをアシスト。本人は「ミスキックだった」と意図したプレーではなかったと述べたが、鹿児島キャンプ中に行われた磐田とのトレーニングマッチで見せたドウグラス タンキへのアシストと重なるようなプレーで、練習の成果が表れた形だった。また、試合の中で3バックの一角やウイングバックへのポジション変更にも柔軟に対応し、チームの戦術にオプションをもたらす役割も担った。
「クロスも狙ったところに飛ばないし、まだまだ何の知識もなく、サイドハーフで一緒に組ませてもらう(松崎)快くんや(中原)輝くんにいろいろ教えてもらいながら、ほんとに言われるがままにやっている感じ」と、無意識レベルでアシストや守備面での成果を出しているところにポテンシャルの高さを感じさせる。
中原に話を聞いても、「最初に組んだ時は本当に分からなそうにしていたけど(笑)、あれだけ良いタイミングで抜け出せるのは、感覚的に良いものを持っているということ。タッチライン際でプレーしたほうがやりやすいと聞いているので、のびのびやらせてあげられたら」と良いコミュニケーションを取れていることがうかがえた。
第2節新潟戦でも先発出場した高木は、セットプレーからの決定的ピンチを防ぎ、カピシャーバの得点につながったCKではヘディングの強さを発揮。また、カウンター攻撃を浴びそうな場面を察知して反対サイドまでカバーリングしたシーンもあった。「カバーの速さは自分の特徴なので、センターバックとしてやってきた経験を生かせている」と無失点勝利への貢献に高木自身も手応えを感じている。
無我夢中でプレーしている今は、「分からないことがたくさんあるので、“サイドバック”を楽しめてはいない」という。ただ、「新しいことを学んでいるという面での楽しさは感じています」と語る高木の表情は充実感に満ちていた。
「去年プロとして1年過ごして、自分がサッカーをやっている意味って何だろう?と考えた時に、友達や家族、親戚に見てもらえること。たくさん応援してもらえるような存在になるために自分は頑張ってるんだなと思いました。サイドバックになって、アイスタはスタンドとの距離が近くて観客の声が本当によく聞こえるなと感じたので、聞こえてくる声が全部良い言葉になるように、攻撃面でも守備面でもしっかりと活躍できるサイドバックになりたいです」
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