新加入選手をクローズアップしたロングインタビュー。第5弾は大分トリニータから完全移籍で加入した羽田健人。契約満了から一転してJ1への挑戦権を手にした彼は、熾烈なポジション争いの中で日々何を感じているのか。
3月13日公開/取材・文=平柳麻衣
ラインの上げ下げで相手を潰す
――プロ入り後初めての移籍となりましたが、エスパルスというクラブにはどんな印象を抱きましたか。
「いやぁ、もう一体感がすごいですよね。清水に関わる全ての皆さんとの一体感。街全体はもちろん、会社とクラブハウスが同じ場所にあるから社員の方々との一体感も感じて、すごいなぁって」
――昨年12月、昨シーズン限りでの大分との契約満了が発表され、エスパルスに加入しました。
「シーズンが終わってからの大分との面談で満了を告げられました。ただ、昨季はケガもあってリーグ戦3試合しか出られなかったので、何となくもう満了だろうなとは感じていて。そこから新しいチームを探し始めた中で、いくつか下のカテゴリーのチームからオファーをもらえて、このチームに行くと返事をしようと決めたところで、最後の最後ギリギリのタイミングでエスパルスからオファーをいただきました」
――オファーが来て、すぐに移籍を決断したのですか。
「まずオファーが来て素直に嬉しかったですし、その日のうちにソリさん(反町康治GM)とオンラインで面談をしたんですよ。『去年は試合にあまり出られなかったけど、その悔しさからもう一回這い上がっていこう。一緒に頑張ろう』といった言葉をいただいて、やっぱり上のカテゴリーでもう一回勝負したいという想いもあったので、気持ち的にはすぐに決まりました。ただ、代理人と話したり、お世話になっている人たちにも相談したりして、エスパルスには翌日返答しました」
――エスパルスのサッカーにどうフィットしていくイメージを持ちましたか。
「ビルドアップの部分は足下の技術で違いを見せてほしいとソリさんにも言われましたし、自分としても強みはそこだと思っています。エスパルスはやっぱりボールをしっかり握りたいチームだと思いますし、パスの部分をチームに生かせたらと」
――足下の技術はどのように磨いてきたのですか。
「中学時代の所属チーム(千里丘FC)がめちゃくちゃポゼッションするチームやったので、その時の経験が大きいですね。あとは僕も基本的にハイラインでやりたい派で、ラインの裏を取られてから対応するというよりは、その前にラインの上げ下げで相手を潰して走らせないようにしたいという考えです。そのためには新加入ではありますけど、ラインコントロールのところは自分が引っ張っていくことにもチャレンジしないと、と思っています」
――すごく穏やかな印象ですが、時にはチームメイトに強く要求したりすることもあるのですか。
「中学の頃から『リーダーになれ』と言われ続けながらも、試合中にも怒ることがないんですよ。それが良くない部分でもあると思っていて、年齢的にももうチームを引っ張るような役割を担っていかないといけない立場になってくると思いますし、今回の移籍をそのきっかけの一つにできたらな、とも思っています」
サッカーのためなら アクティブに頑張れる
――リーグ開幕から約1カ月が経ちますが、日々どんなことを感じていますか。
「めっちゃ充実してます。もちろん試合に絡めていないのは悔しいですけど、それ以上にやっぱり日々すごく高いレベルでサッカーができて、それを学んでいっている実感があるので。スピード感もそうやし、チームメイトとのマッチアップもそう。(北川)航也くんの動き出しなんかは紅白戦で対峙してすごく嫌やなと思うし、みんなレベルが高いから、たくさんの学びがあります」
――試合に絡めないことは、ストレスにはなっていないですか。
「それはストレスにはならないですね。もちろん悔しい気持ちは強いですよ。でも、まだまだ自分に足りないものがあるんだって思いながら今はできているし、もっとレベルアップするために日々やっているから。試合に出るために直さないといけないところが僕には山ほどあるんですよ。今のままでは試合に絡めないだろうって自分が一番実感しているし、だからもっとやらないといけない。そこは自分の中で気持ちを上手く練習に落とし込めていると思います」
――成長のための取り組みとして、最近ピラティスを始めたそうですね。
「フィジカル的にもっと強くなりたいと思って、でも単に身体を大きくすれば良いってわけでもないし、柔軟に動けるようにしたかったので、ピラティスの個人レッスンに通い始めました。ピラティスと言っても、僕が行っているのはジャイロトニックを教えてくれるところです。大分時代もパーソナルトレーニングを頼んでやってもらったり、シーズンオフに大阪でジャイロトニックをやったりしていて。サッカー以外のことだとなかなか家から出ないタイプですけど(笑)、サッカーのためならアクティブに頑張れます」
――今回、新たに受けたレッスンは効果を感じられましたか。
「まだこの前1回目を受けたばかりですけど、普段使わない筋肉を動かしすぎて、すごかったです。基本的にはアスリートも一般の方もメニューの内容は大きく変わらないと思いますけど、僕の場合は去年膝のケガをしているので、膝の使い方や身体、筋肉の動かし方をいろいろ教えてもらいながらやっています。これから自分の身体がどう変わっていくのかすごく楽しみですね」
――そのようにサッカーに対してはずっと向上心高く取り組んできたのですか。
「いや、ずっとではなかったですね。中学2年のときにケガが多くて1年間ほぼサッカーができず、金光大阪高校に進学できたのも兄貴がいたからっていう繋がりのおかげ。でも、関西大に進学してからは、周りにプロに行く選手たちがいたから、そういう選手たちからいろいろなことを学んだし、自分も追いつきたいと思いながら必死にやっているうちにプロになることができました」
――プロになりたいと思ったきっかけは?
「具体的に思い描けるようになったのは大学に入ってからですけど、サッカーを始めた頃からプロになりたいという夢はありました。地元が大阪なので、小さい頃はガンバファン。親と一緒に毎試合のようにスタジアムへ観に行ってました。憧れといえば、当時はもう『ツネ様』(宮本恒靖)ですよ。ガンバがJ1で初優勝した時とかに活躍していたので、よく覚えてますね」
――羽田選手は小さい頃からずっとDFだったのですか。
「いや、小学生の頃はFWで、点取り屋でしたよ。中学からセンターバックにコンバートされて、大学まではずっとセンターバック。大分でボランチをやって、エスパルスに来てからはまたセンターバックです」
自分が憧れてたチームの前で、自分のプレーを見せたい
――センターバックの醍醐味はどんなところに感じますか。
「シンプルに守るのが楽しいから、僕には向いているポジションやと思います。点を取るよりも守ってるほうが楽しいんですよ。やっぱり相手を抑え込めた時が一番楽しいし、それは相手のレベルが高ければ高いほど。今季J1に挑戦したいと思ったのもそれが理由の一つです。もちろん試合の中では相手に上回られてしまう場面もあるんですけど、それでも封じ込めた時の楽しさのほうが勝りますね」
――では、失点してしまったとしても、すぐに切り替えるリバウンドメンタリティも持ち合わせていますか。
「いや、試合が終わったら一旦はめちゃくちゃ落ち込みます。でも、プレーを見直しながら何がいけなかったのかを考えて、ダメなところはしっかり受け止める。それで、次はこうしたろうっていう答えを自分なりに見出して、あとは時間が解決してくれますね。次の練習を迎えるまでにはしっかり切り替えてグラウンドに行くようにしています」
――それだけ「1点」に強くこだわっているとも言えますね。
「それはもちろん、センターバックとしてこだわりを持たないといけないところやと思っています。だからこそ引きずってしまうけど、ちゃんと家でリフレッシュして、次の練習までには解決するように心がけていますから」
――ボランチを経験した大分時代は、自分にとってどんな意義があったと思っていますか。
「それまでの自分とは違う自分になれた気がします。今までやったこともなかったポジションをやって、そこでもまた足下の技術を磨かないといけないと実感して、すごく良い経験になりました。ボランチをやって良かったなと思うのは、センターバックに戻った時にボランチのように360度を常に意識しなくて良いので、めちゃくちゃ余裕を感じられるんですよ。逆にエスパルスに来てからはセンターバックしかほぼやっていないから、センターバックの視野に戻ってしまいつつあるので、あの余裕を持てる感覚を取り戻したい。最近はそう思いながらやっているところです」
――改めて今シーズンに懸ける想いを聞かせてください。
「今27歳で、一度は契約満了になった身で、もう後がないってことは分かっています。これからもサッカーを続けていくためには、今やるべきことをやるだけ。あまり先のことを考えずに、今やれることを精いっぱいやって、それが結果につながればいいなと思います」
――羽田選手にとって、プロとしてサッカーを続けるモチベーションはどこにありますか。
「さっきも言ったとおり、僕は小さい頃ガンバファンやったんですよ。だからこの前のアウェイのガンバ戦でメンバーに入れなくて、めちゃくちゃ悔しかった。今季はまだリーグ戦でのホームでの対戦も残っていますし、そこで試合に出てやってやるぞと。自分が憧れてたチームの前で、自分のプレーを見せたい。そのためにコツコツと頑張っていくだけです」
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プロキャリアをスタートさせた大分から初めての移籍とあって、「大変なことのほうが多いと思う」と新体制発表会見の日に語っていた羽田。
実際ここまではリーグ戦に絡めず悔しい想いを募らせながらも、「足りない部分=伸びしろ」とポジティブに捉え、前向きにトレーニングに打ち込んでいることが感じ取れる。
ある日のクラブハウスからの帰り際。「ピラティス行ってきまーす!」。自分磨きに勤しむ羽田の表情は充実感に満ちていた。
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