日々の競争、陰での努力、悩み、葛藤……選手一人ひとりの物語を追ったコンテンツ【STORY】。今回は宇野禅斗選手編です。
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4月1日配信/取材・文=平柳麻衣
「“言葉の力”を持っている人の共通点って何だと思います? ちょっと考えてみてください。続きはまた明日話しましょう」
指導者やキャプテンなどの役職に就いている人、もしくはベテラン選手……。それに限らず、ときには若手選手の中にも“言葉”で他人を惹きつける力を持つ人がいる。彼らに共通するものはとは?
翌日、宇野禅斗は約束どおり前日の“続き”を話してくれた。
「あくまで俺の中の答えですけど、行動で示し続けられる人。これに尽きると思います。一度やると決めたことをやり続ける人と、『今日ぐらいはいいや』と妥協してしまう人では、そういう日々を積み重ねるほど、つまり自分が自分を裏切った回数が多ければ多いほど、発する言葉が浅くなっていくと思うんです。逆に『毎朝何時に起きる』とかルールを決めてない人だったら、別にゆっくり起きても問題ないと思います。要は、自分を裏切ってないかどうか。俺も完璧な人間ではないからまだまだだけど、できるだけそれを少なくしたいと思いながら過ごしています」
毎試合、守備で絶対印象に残るプレーを出したい
今シーズン、開幕からスタメンの座を掴んだ宇野は、ケガで欠場した京都戦を除く6試合に先発出場し、ボランチの一角として攻守に大きな存在感を放っている。
“覚醒”の予感は1月のチーム始動からすでに漂い始めていた。1月20日に行われた愛知東邦大学とのトレーニングマッチではキャプテンマークを巻いて出場し、「今季の目標として得点に絡んでいきたいというのがあって、そのためにはBOX to BOXで走れる選手、戦える選手。まずはその意識付けから」として、ペナルティエリア内に飛び込んでPKを獲得。
「青森山田の頃から何年もペナ内に侵入していくようなプレースタイルの選手ではなかったから、エリア内に入るとファーストタッチが大きくなってしまうんですよ(苦笑)。そこは本当に反省ですね。でも、そこまで行けるようになっていることはポジティブ。感覚的には例年よりも(エリア内に)飛び込めているので、あとは守備の感覚をもっと研ぎ澄ませていくこと。J1レベルになってくると相手のボランチの質も上がってくるし、良い配給ができる選手がたくさんいるので、俺ももっと自分を印象付けるプレーを出したうえで、攻撃を組み立てていく部分もやっていけたら」と意欲を高めていた。
昨季は夏に町田から育成型期限付き移籍で加入したが、今季から完全移籍に移行。好調を維持する要因を、宇野自身は次のように分析している。
「まずはチームの色が俺に合っていたというのが第一にあって、監督が求めているものにフィットしているという感覚もあります。あとはやっぱりメンタルが大きくて、語弊があるかもしれないけど、余裕があるというか。気持ち的に落ち着いているからどんどん前を向けるようになってきている気がするし、プレー中に周りが見えるようになってきているとも感じます。日々成長できている感覚はありますね」
昨季まではボールを持ったら乾貴士に預ける、という意識が大きな割合を占めていた。しかしJ1に上がった今季は当然ながら乾へのマークも厳しく、彼個人の力だけでは通用しない。だからこそ「試合を見返しても、もっと自分がこういう役割を担えれば……と思う部分が多くなったし、それは俺だけでなくチーム全体として、他のみんなも『自分がやろう』という意識が高まっていると思います。そのおかげで貴士くんをより“アクセント”として生かしながら良い展開に持っていけることが増えた気がするし、コミュニケーションの部分も含めて、もっと俺がゲームを作っていかなきゃいけない」という意識も芽生えてきた。
ただ、同時に自分の強みをより確固たるものにしたいとも思っているのだという。
「いろいろなプレーを取り入れていく中でも、強みは絶対に消したくないです。何が強みなのかが分からなくなったら、選手としてあやふやになってしまうから。俺を印象付けるのは、やっぱり守備。『ネイマールみたいな選手になりたい』ではなくて、『ネイマールを止めたい』と思いながら育ってきた選手だから、ボールを奪うところに甘えや妥協があってはいけない。毎試合、守備で絶対印象に残るプレーを出したいです」
今までの試合で一番話した
強みは残しながらも、もっと自分がゲームを作っていく――。意識しても、試合の中で実行に移すのはなかなか難しい。第2節新潟戦では、チームとして上手くいっていないと感じていながら、ピッチ内で効果的な修正をかけられなかった反省が生まれたという。
「試合の途中から3枚回しに変えたんですけど、あとで(矢島)慎也くんに聞いてみたら、『あと10分は早く変えて良かったと思うよ』って言われたんです。しかも俺が試合の途中から変えたのも、自分の判断ではなくベンチからの指示があってからだったんですよね。俺の場合、上手くいかないから形を変えるのではなく、練習で準備してきた形のままどうやったら上手くいくかと考えてしまっていて。それだと『ピッチの中で感じた人が判断して』という秋葉監督の要望にも応えられていないし、慎也くんはそれがパッと分かるんだ、やっぱりすごい人だなって尊敬するとともに、そうできなかった自分がすごく悔しい。慎也くんだったり、(松崎)快くんだったり、いろいろなことを教えてくれる先輩が周りにいるので、俺はすごく恵まれているなと思います」
今季初黒星を喫した第5節G大阪戦の翌日のトレーニング後には、矢島、高木践とともに“青空ミーティング”ならぬ“青空反省会”で約45分におよぶ熱弁を繰り広げた。主な議題として挙がったのは、G大阪FWイッサム ジェバリへの対応に関してで、矢島は悩む宇野に対してこう伝えた。
「何回か収められて嫌だったなら、ボランチが嫌か嫌じゃないかで(プレーの)判断を変えていいと思うよ。だって一番ゲームの流れを分かっているのがボランチだし、秋葉監督も『11人のやり方が揃っていればそれが最高の戦術だから』ってよく言うじゃん。そこに年齢は関係ないし、若い選手が試合中にリーダーシップを取れば周りは頼もしいなって感じると思う。何より、自分自身にとっても大きなアドバンテージになるよ」(矢島)
続く京都戦を欠場し、中断期間を挟んで迎えた第7節湘南戦。この一戦は、宇野にとって「今までの試合で一番、ピッチの中でいろいろな選手と話した」という試合になった。とくに意識したのは守備面で、「行けるところと行けないところの細かい部分を、みんなとコミュニケーションを取りながらできました。慎也くんが試合中もめっちゃ喋るって言ってたから、じゃあ俺も喋ってみようって。俺、良いと思ったことはすぐ取り入れますから」。このスタンスこそ、宇野が今季、目を見張るような成長曲線を描いている大きな要因と言えよう。
無失点勝利は「前線もサイドもCBも、みんなが練習でやってきたとおりにハードワークしてくれたおかげ」と述べたが、細部までこだわり抜いた宇野のコミュニケーションの影響は少なくなかったはずだ。先制点につながるPK獲得、チーム2点目の起点となったダイレクトパスと攻撃面でもインパクトを残しただけでなく、「走行距離も伸びていたし、パス成功率も高かった。とくにボールを持っていない時の走行距離が長かったのは良いポジショニングができているってことだと思うし、すごく疲れたけど、やっぱりサッカーって楽しい。今はなんかもう全部が見えてるってぐらい広い視野を持ってプレーできているのが良い」と充実した表情で振り返った。
そして宇野はこう続けた。「これぐらいの出来をアベレージにしたいですね。今がもうワンランク上に行く感触を掴めるかどうかのタイミングだと思っています。そのためにも試合に出続けて、コンスタントに良いパフォーマンスを見せて、もっと自信を持ちたい。その自信が過信にならないように、謙虚さを持ってやっていきます」
湘南戦では、得点もアシストも記録していないにもかかわらず、宇野がヒーローインタビューに選ばれた。
「『何で俺?』とは思いましたけど、評価してもらえたのは嬉しいですね。今日、今までの試合の中で一番、『ウノゼント』コールを聴けた気がしません? エスパルスのサポーターってやっぱりすごいですよ。シュートとかセーブだけじゃなくて、そのもう一個前のプレーでも、良いプレーがあると名前をコールしてくれるんだもん。それってすごく嬉しいことだし、やりがいを感じますね」
身体一つでできるスイッチの入れ方
選手入場から集合写真を撮った後、ピッチ脇で膝をつき、目を閉じる。いまや見慣れた宇野の試合前のルーティンだ。
「みんなから少し外れたところで一旦水を飲んで、精神統一をして、ジャンプしてからピッチに入るようにしています」
かつては音楽を聴くなどのルーティンを決めていたが、年代別代表で海外へ行ったとき、通信環境の問題などでルーティンを遂行できないことがあった。
「その大会がもう俺の中で全然ダメで、こんなにもひどいものかってぐらい。ご飯だったり音楽だったり、ルーティンにこだわりすぎていたのがダメだったのかなって考えて、それ以来、海外だろうとどんな環境だろうと、自分の身体一つでできるスイッチの入れ方を持っておくのも大事かなと思って、それから取り入れるようになりました」
“自分で決めた”スイッチの入れ方を続けることで、どんな試合でもいつもどおりの自分でプレーすることができる。常にピッチで全力を出し続ける宇野の生き方は、純粋で、真っ直ぐだ。
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「謙虚にやり続けるのって難しいと思いながらやってきたんですけど、最近、俺の中でリセットの仕方があって。試合前に毎回、今まで俺が本当に助けられたなっていう人たちの顔を思い出すんです。
俺、第五中足骨骨折を3回やってて、3回目に再手術した時にトレーニングを一緒にやってくれた人。高校時代にスカウトに来てくれていろいろな話をしてくれた東京ヴェルディの江尻(篤彦)さん。高校時代のスタッフ。青森山田時代に学校の会館でご飯が出ない日曜日、サッカー部全員、200人ぐらいでいつもお世話になっていた『ニキニキ』っていうご飯屋さんのおばちゃん、おじちゃん、お姉さん。そういった人たちのことを思い出すと、俺はこの人たちのために頑張ればいいんだって、自然と心をリセットできます」
「あとはやっぱり家族の存在って大切だなって。お兄ちゃんは俺がサッカーを始めるきっかけをくれたし、2人とも上手くいかずに今は違う道に進んでいったけど、俺の可能性を見出してくれて、今でもめっちゃ応援してくれています。親はすごく厳しかったから反抗してしまった時期もあったけど、ケガをして俺がプレーできなくなった時や試合に出られない時、苦しさとか、悲しさとか、同じ気持ちになってくれたんですよね。
それがあったからケガに対してすごく重く受け止めるようになったし、ケアも含めて『自分だけのためじゃないんだ』って思えるようになりました。だから今は、俺がプレーする姿を家族に見せ続けて楽しんでもらいたいし、それが俺にとっての幸せです」
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