新加入選手をクローズアップしたロングインタビュー。今回は夏の移籍ウインドーで浦和から完全移籍で加入した髙橋利樹選手。常に前線からのハードワークを惜しまないストライカーが目指す選手像とは。
8月21日公開/取材・文=平柳麻衣
航也くんと自分はタイプが違う。だからこそ…
――今夏加入し、すぐさま出場機会を得ました。早くチームにフィットするために意識したことは?
「やっぱりチームメイトに認めてもらうのが一番ボールが出てくると思うので、『コイツならボールを渡してもいい』と思ってもらえるような選手になるために、球際の部分にしっかり行くことや、確実にゴールを決めきるというところは意識しました。昨季、横浜FCに移籍した時もキャンプ後で何試合か消化してからの加入だったので、シーズン中の加入の難しさというのはその時にすごく感じていて、上手くいかないこともありました。今回の移籍に関してはその経験を生かせたのと、初日がオフ明けでアジリティトレーニングだけだったというのもあって、チームの雰囲気を知りながら馴染めたかなと思います」
――FWの選手が新チームに加入する際、とくに難しさを感じる部分はありますか。
「横浜FCの時はキャンプ中にある程度、攻撃の形が構築されていて、守備の約束事もしっかりありました。それでも加入して初スタメンの試合で点を取ることができたんですけど、そこからなかなか点を取れなくなってしまって、今思えばチームに求められる役割を意識しすぎたのかなとも思います」
――エスパルスでのデビュー戦となった天皇杯の広島戦では、ファーストシュートで大きなインパクトを残したかと思います。
「ファーストプレーだからという意識はなかったですけど、チームに認めてもらうためもそうだし、エスパルスサポーターの皆さんに初めて観てもらう機会だということは意識の中にありました」
――移籍を決めるにあたって、エスパルスのFW陣にはどんな印象を抱いていましたか。
「スタメンで出ているFWはほとんど(北川)航也くんでしたし、8点(髙橋選手の加入時点)と結果も残していて、秋葉(忠宏)監督の理想にマッチしているんだろうなと思っていました。航也くんはもともと若い頃からすごく点を取っていて海外に行ったことも知っていましたし、本当に良いライバルというか、超えていかなければいけない存在になるとは思いましたけど、航也くんと自分はタイプが違うからこそ獲ってもらえたとも思いましたし、他のFWの選手たちも含め、みんなで良いポジション争いをしていくことがチームにとっても相乗効果みたいなものが生まれるんじゃないかと思いました」
――移籍するにあたって一番、決め手になった言葉や出来事はありましたか。
「浦和は守備の形をすごく気にする監督なので、決まり事も多く、どうしても後ろばかりが気になってしまい、なかなか自分の良さを出しにくいというか、手応えがないことに悩んでいました。それをエスパルスの方々に話した時に、『自分の思うような守備をすれば良いから』と言っていただいて、もちろんパスを通されてはいけないところにはしっかり行かないといけないですけど、チームのスタンスとしては自分の良さを生かしやすいのかも、と感じたのは結構大きかったですね。浦和ではなかなか出場機会をもらえず、選手である以上、試合に出たいという気持ちは強くありますし、エスパルスから声を掛けていただき、行かない選択肢はないなと思いました」
――加入前に秋葉監督とはコミュニケーションをとりましたか。
「ソリさん(反町康治GM)と内藤(直樹強化部長)さんが直接会いに来てくれた時に、オンラインで秋葉監督とも話す機会をいただいて、何というか……インタビューとかで見ていたイメージどおりの人だなと思いました。あとは、俺自身は今まで接点はなかったですけど、過去に秋葉監督と関わりのある選手が浦和に結構いて、『合うと思うよ』と言ってくれました」
――北川選手は横浜FM戦(8/16)後、「利樹の動きを見ながら自分がどう動くかをすごく考えながらプレーした」とコメントしていましたが、髙橋選手は?
「航也くんが自分のほうをすごく見てくれているのは試合中にも感じました。航也くんは背後に抜けることも落ちてプレーすることもどちらも器用にできるタイプで、自分はどちらかというと背後に抜けるプレーを得意としているので、そこも踏まえて航也くんがすごく気を使ってくれているのかなと思います。とくに横浜FM戦は航也くん、(乾)貴士くん、(山原)怜音が入った後半から自分もボールに触るチャンスが増え、やりやすさは感じました」
根っからのストライカーではない
――いつ頃からFWをやっていますか。
「中学生までは身長が小さかったのでいろいろなポジションをやっていました。中学3年生の時に身長がすごく伸びたのでFWをやることになって、高2、高3の頃にはサイドハーフもやっていました。でも器用ではないので、大学のセレクションはFWとして受けて獲ってもらいましたし、『サイドハーフでは通用しないな』というのは高校時代にもう感じていたので、大学のコーチにはサイドハーフをやっていたことは言っていないです(苦笑)」
――長年FWをやり続けてきたのかと思っていました。
「いや、性格も全然ストライカー気質ではないですし、根っからのストライカーではないですよ」
――FWをやるにあたって、お手本にしている人はいますか。
「FWを始めることになった時に、どういうボールの受け方をするんだろう?と最初にプレーを見始めたのが興梠慎三さんだったんです。俺は埼玉出身でレッズファンだったというのもあって、試合を観る機会が多かったですし、慎三さんの身体の使い方やゴール前への入り方、クロスへの入り方はすごく参考にしています。それにポストプレーもすごく上手いんですよ。今でもたまに試合前に慎三さんのプレー集を見て、良いイメージをつくってから試合に入ることもあります」
――浦和時代にはチームメイトになりましたね。
「はい。全盛期と比べたらもしかしたら動きは劣ってしまっていた部分もあったのかもしれないですけど、技術の部分はもう抜群に上手かったですね。こういう時にはこう動けばいいんだ、というのを間近で見て自分なりに解釈するようにしていました」
――FWとしてのモットーはありますか。
「チームに勇気を与えるプレーをすること。とくに守備面においてですね。『FWは点を取れば良い』という考えの人もいるかもしれないですけど、やっぱり前線の選手が守備をしていなかったら後ろはモチベーションが下がってしまうと思うし、逆にしっかりやれば、前線があれだけ頑張っているんだから頑張ろうとか、前線にボールを届けようって思ってもらえるかなって。そういうプレーを心掛けることで必然的にボールが入ってきて、点を取ることにもつながると思っています」
俺はずっと下から這い上がってきた人間
――プロキャリアのスタートは熊本でした。
「国士舘大は最初に声を掛けてくれたチームに行ったほうがいいという風潮が結構強くて、俺がちょうど教育実習に行ってる間に熊本からオファーが来て、帰ってきてすぐに返事をしました。親にはずっと『公務員になれ』と言われていたので、喜んでくれたのかどうか分からないですけど(苦笑)、俺自身はプロになりたかったので本当に嬉しかったですね」
――熊本時代の印象的な思い出は?
「大木(武)さんに出会ったことがすべてですね。足元の技術を教え込んでくれたのも大木さんですし、今でも足元はそんなに得意なプレーではないんですけど、大木さんからいろいろなことを学べて良かったなと思っています。プロ1年目から3年目までずっと大木さんの下でサッカーができて本当に良かったと思っています」
――2023シーズンからは、「ファンだった」という浦和へ移籍しました。
「そのタイミングで何チームかオファーをいただいたんですけど、レッズからのオファーを断るのは無理というか、話が来たら行きたいと思いました」
――浦和での日々を今はどう振り返ることができますか。
「憧れのチームに行けたという意味では、行って良かったなとは思います。でも在籍した約1年半の中で、一番前で勝負するチャンスは本当に少なかったので、そういう意味ではもう少し自分の中でアピールの仕方など、やりようはあったのかなと思います。自分にとっては初めての外国人監督で、その部分でも難しさを感じるところもありました」
――苦しかった中でも成長を感じた部分はありますか。
「いろいろな難しさはありましたけど、自分の中で『もうやってられねぇ』みたいな気持ちになったことが本当に一回もないんですよ。メンバー外の練習でも『いずれチャンスは来る』と思いながら常に100パーセントで取り組めていたと思っていますし、その経験はこれからの自分自身のサッカー人生や、これから関わっていく後輩たちのためにも生かしていきたいと思っています」
――どんな状況でもくさらずに取り組めた原動力は何ですか。
「『何で使ってもらえないんだろう?』と純粋に思ってはいましたけど、ベクトルは常に自分に向いていました。映像を見て振り返りながら、『この場面はこういうプレーがいいかな』と試行錯誤したりして。俺はずっと下から這い上がってきた人間なんです。高校時代は一度だけ年代別の代表に呼んでもらったことがあったけど、本当に無名の存在だったので、今でもサッカーができていることが当たり前じゃないというか、感謝の気持ちを持ちながらプレーしているところはあります」
――今後のキャリアで目指すものは?
「“上手い選手”より“良い選手”になりたいです。俺が思う“良い選手”というのは、サボらず、収めるところで収めて、背後に抜けるところは抜けて、そういう自分の得意なプレーは土台として持ちつつ、点の取れる選手です」
――最後に、エスパルスでの目標を聞かせてください。
「自分が点を取ってJリーグで優勝する。優勝に導けるような選手になりたいと思って移籍してきました。このタイミングでまたJ1でプレーさせてもらえる機会をいただいたことにはすごく感謝していますし、なかなか試合に出られていない中で完全移籍で獲ってくれたこともすごく嬉しかったです。サポーターの皆さんの応援の熱量もすごいですし、『獲って良かった』と思ってもらえるように頑張っていきます」
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チーム合流から数日後、矢島慎也や中原輝、松崎快らチームメイトに髙橋の印象を問うと、奇しくも皆から同じ言葉が返ってきた。
「チームの力になれる選手だと思う」
“チームに勇気を与えるプレーをする選手でありたい”という髙橋の姿勢は、たった数日のトレーニングでチームメイトたちに浸透していた。
常に自分に矢印を向け、全力を尽くす髙橋は、献身性とゴールという結果で観る者を魅了していく。
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