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~ KPMGジャパンと考える『S-PULSE SDGs ACTION』対談企画~ 第2回 「SDGsに取り組むために、クラブはホームタウンとどのように連携しているのですか?」


静岡市 観光交流文化局スポーツ交流課 栗田 智香氏

静岡市 環境局環境創造課 長塚 涼子氏

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エスパルス 事業本部ホームタウン営業部 鈴木 詩織

(聞き手:KPMGジャパン 土屋 光輝氏)


2019年から清水エスパルスが取り組んでいる『S-PULSE SDGs ACTION』について、改めてその活動をより多くの方々に知ってもらうため、エスパルスのSDGs活動やクラブが地域や社会へもたらす価値の可視化に現在一緒に取り組んでいるKPMGジャパンの土屋さんとともに、以下の3回に分けて関係者を交えながら対談を行います。 なお、KPMGジャパンの土屋さんには、日頃よりクラブのSDGs ACTIONへ的確なアドバイスをして頂き感謝しております。


第1回:「サッカークラブにとってSDGsってどんな関係があるのですか?」


第2回:「SDGsに取り組むために、クラブはホームタウンとどう連携しているのですか?」


第3回:「エスパルスはホームタウンや社会にどんな価値を創出しようとしているのですか?」


第2回は、ホームタウンである静岡市からスポーツ交流課の栗田さんと環境創造課の長塚さんをお招きして、「SDGsに取り組むために、クラブはホームタウンとどう連携しているのですか?」をテーマに静岡市がSDGs、ひいては地域課題の解決のためにエスパルスと日頃どのような活動をしているのかについて対談させて頂きましたので、その模様をお伝えします。


~スポーツを活用した地域課題の解決~

KPMGジャパン 土屋さん:

SDGsに取り組むというのは、身近なところで考えればまずは地域課題の解決に取り組むことと言えるのではないかと思います。

そのような中で、スポーツが地域課題の解決にどのように貢献しているのかを調査したデータがあります。2019年から2020年にかけて、日本のNPB(野球)・Jリーグ(サッカー)、米国のMLB(野球)・NBA(バスケットボール)、英国のプレミアリーグ(サッカー)のリーグやチームが実施した地域貢献活動をオープンデータからSDGsの目的別に集計しました。

その結果、日本では、「3すべての人に健康と福祉を」、「4質の高い教育をみんなに」及び「11住み続けられるまちづくりを」を目的とした活動が多く、これらが全体の7~8割程度を占めていました。それに対して、欧米では日本と比較すると、相対的に「1貧困をなくそう」、「2飢餓をゼロに」、「5ジェンダー平等を実現しよう」を目的とした活動の割合が多く、また、英国では、「8働きがいも経済成長も」を目的とした活動の割合も多くみられました。

また、個別の活動内容を見ていくと、欧米ではそれぞれの地域課題を具体的に認識し、その解決に向けてより効果的な地域貢献活動を選択しているように見受けられました。

つまり、スポーツ団体がその地域で何を求められているのかをしっかり把握・理解し、その活動がどのような地域課題の解決に繋がるのかを十分に検討して取り組むことが重要だという気づきがそこにありました。

この点からまずは栗田さんにお聞きしますが、地域で何を求められているかについて静岡市とエスパルスはどのように情報共有しているのでしょうか?

~クラブと自治体の関係~

静岡市スポーツ交流課 栗田さん:

エスパルスには静岡市の総合計画などを十分理解していただけているため、市が何を目指し何が課題なのかを共有できています。その上で、市の各課を一緒に回って具体的にはどんな課題があるか、どこに携われるかをヒアリングし、市とクラブが共に取り組むことができる共通の課題を見つけて、実際の活動に繋げています。

エスパルスには現在、多くの事業に携わっていただいていますので、クラブの皆さんとはほぼ毎日、市の職員誰かしらがコミュニケーションをとっています。以前にJリーグシャレン!活動の関係で他のJクラブや自治体の方とお話した際に「相当密にクラブと会話されていますね」と色々なところで言われました。

「他のクラブや市町でこういうことをやっていたよ」とか「こんな取り組みを見てきたよ」とか日頃のコミュニケーションの中から、新たな取り組みの提案をエスパルスから市に持ちかけてくれることもありますし、市からエスパルスに持ちかけることもあります。


KPMGジャパン 土屋さん:

なるほど、やはり日頃からの双方向のコミュニケーションが大事なのですね。常に気軽に会話できる関係にあるのが一番のポイントですね。


エスパルス 鈴木:

Jリーグのシャレン!ミーティングでも「雑談力」がよく話題になっていますが、普段の会話の中で、こういうことを今後やってみたいとか他クラブで行っていた活動などを話していくうちに、こんな取り組みはできますかという相談をお互い気軽にできる関係性が構築できているのではないかと思います。先日の台風15号 豪雨災害の際も、静岡市と連携しクラブができることを相談し実施してきました。


静岡市スポーツ交流課 栗田さん:

クラブと自治体との関係性だけではなく、エスパルスは市役所内のコミュニケーションも促進してくれています。クラブとの連携事業には市役所内でも色々な課が関わっていて、普段は交流していなかった部署間の繋がりができました。私もエスパルスの事業を通じてでなければ環境創造課の長塚さんと仕事上繋がることはなかったかもしれません。


KPMGジャパン 土屋さん:

それはスゴい!そう考えると、クラブは自治体のセクショナリズムの壁をも壊せる存在なのですね。


~エスパルスを活用した具体的な取組み~

KPMGジャパン 土屋さん:

そのようなクラブとの関係性を通じて、具体的にはどんな取り組みに繋がったのでしょうか?


静岡市スポーツ交流課 栗田さん:

例えば、教育サポート事業で「エスプラス」というホームタウン次世代育成プロジェクトがあります。当初は市が教育機関に委託してエスパルスを活用してもらい実施していましたが、エスパルスからの提案でシャレン!活動として企業を巻き込んだ形に発展していきました。

初めはエスパルスを通じた学校授業への興味促進や地域愛の醸成が目的でしたが、企業も関わってきたことでキャリア教育にも広がっています。教育委員会と話をしながら子ども達にどんな教育をしたら良いかを毎年検討していて、最近はSDGsの理解促進も授業内容に組み込んでいます。

KPMGジャパン 土屋さん:

エスパルスからの提案もあって、子ども達の将来により資する教育事業に進化させているのですね。他にはどんな取り組みがありますか?


静岡市スポーツ交流課 栗田さん:

Orange Heart Project」という、こころの病と向き合う方を対象にした取り組みがあります。この取り組みはエスパルスのホームゲーム開催日に実施していて、試合前のスタジアムのピッチでスポーツ教室を行った後、就労体験としてスタジアムボランティアの体験をして、最後にその日一緒に活動した皆さんで試合を観戦します。スタジアムでの1日を通して、スポーツをすることの楽しさや働くことの大変さや喜びを参加者同士が共感し、スタジアムの一体感を共に味わうことで社会と繋がるきっかけができたらという思いで活動しています。

こころの病についての支援は市とエスパルスの事業としては初めての取り組みで、簡単ではないテーマでしたが、クラブと一緒に市の精神保健福祉士の資格をもつ専門職の職員に相談し、取り組みに共感してもらえたことで実現に至りました。


KPMGジャパン 土屋さん:

一見するとサッカークラブと関係ないように思われますが、こころの病というメンタルの問題に対してスポーツの精神性や心の持ちようなど、参考になる部分があるのですね。


静岡市スポーツ交流課 栗田さん:

実際取り組むにあたっては、専門的な知識がないとどのようなことが効果的か、どのように関わったら良いのかなどわからないことが多く、専門職の職員にも相談しながら進めました。

参加者からは特別な一日になって良かったという声を沢山頂いて、結果として、参加者はもちろん、静岡市にとっても素晴らしい取り組みとなりました。

エスパルス 鈴木:

他にも、地域課題の解決にクラブを活用してもらっている取り組みの一つとして、ホームゲームにおけるシティプロモーションがあります。地域経済が少し落ち込んできている中、ホームゲームを通じて多くの人びとに地域資源をPRしより楽しんでいただけるよう、「清水みなとまつり」、「静岡茶」、「しずまえ・オクシズ」などをテーマにイベントを行いました、最近は市内の高校生にホームゲームでパフォーマンスを披露いただいたり、コラボ商品販売や社会連携の授業なども行っています。コロナ禍で発表や校外活動の機会が減っているという声を聞き、地域の先生方と相談しながら企画を進めています。

KPMGジャパン 土屋さん:

もはやエスパルスが関われない取り組みはないような気さえしてきてしまいますが、改めてこれらの取り組みにエスパルスが関わる意味とは一体何でしょうか?


静岡市スポーツ交流課 栗田さん:

エスパルスが関わることで「特別なものにふれる」とか「特別なことをした」という感覚が得られることではないでしょうか。

静岡でのエスパルスの認知度は100%に近いです。地域のみんなが知っている馴染みのある存在のクラブが関わることで、市だけで取り組むと堅苦しく思われてしまってなかなかハードルが高い取り組みでも、「エスパルスが関わっているなら一緒にやってみようかな」となりやすいのではないかと思います。


静岡市環境創造課 長塚さん:

環境問題も同じで「難しい」とか「何をしていいのか分からない」という方もまだまだ多い中で、エスパルスと共に活動することで多くの方に関わってもらえるのはかなり大きいです。また、自治体又はクラブ単独で取り組んでいるだけではどうしても限界がありますので、そこを補い合えるのも非常に有難いなと思っています。


KPMGジャパン 土屋さん:

環境問題に対しては具体的にどんな取り組みがありますか?


静岡市環境創造課 長塚さん:

毎年「クールチョイス」という地球温暖化対策に資するあらゆる賢い選択を促す活動を続けています。環

境に対する呼びかけだけでなく、地域の方々が実践行動に移せるような企画を行っていきたいという想いがあり、そこでも双方で意見を出し合いながら進めています。その結果、当初はスタジアムでブース出展して啓発活動することから始まったのですが、PULCLEや三菱電機㈱・㈱コジマと連携した省エネ家電への買替え促進企画など、具体的な施策に年々ブラッシュアップされてきています。

環境CMづくりやかるたづくりなどの募集企画もこれまで継続してきましたが、毎年応募してくれたり、楽しみにしている方が沢山いて、子ども達が環境問題に取り組むことへの習慣づけにもなっているのです。

~新たな取組みや今後の展望~

KPMGジャパン 土屋さん:

エスパルスは、環境問題に対する活動について、静岡大学との共創プロジェクトで「CO2排出削減量」を算出したり、また、地域への波及効果を「エスパルスファミリー数」で表したり、活動の成果を定量的に示すことにも現在取り組んでいますが、活動を継続していく上で、このような取り組みは自治体にとっても良い影響はありますか?


静岡市環境創造課 長塚さん:

間違いなくあると思います。CO2排出削減量については、いくら環境問題に取り組んでいるよと言ってもなかなか成果が見えにくくどうしても説得力に欠ける中で、定量的に示してもらうことで客観性をもって意味のある活動だと言うことができますし、自治体としても継続して連携しやすくなります。


KPMGジャパン 土屋さん:

なるほど、こういった取り組みも相まって今後もエスパルスとの連携はますます続いていきそうですね。

それでは、今後の新たな展望も聞かせてください。


静岡市環境創造課 長塚さん:

静岡市が脱炭素先行地域に選定されている中でエスパルスもゼロカーボンプロスポーツクラブ宣言を表明され脱炭素については今後もより一層連携を深めていけると思っています。

そのような中、静岡市の企業へのアンケートの結果、約42%の企業が「脱炭素化はビジネスチャンスだと捉えている」と回答していたものの、特に中小企業は人的・資金的になかなか取り組むのが難しかったりするので、個人的にはこの辺りについてもエスパルスと一緒にアプローチしていけたらいいなと思っています。

KPMGジャパン 土屋さん:

エスパルスにとってこれは新たなチャンスですね。


エスパルス 鈴木:

そうですね。クラブは脱炭素に関する専門家ではありませんので、主に強みである人を巻き込む力や発信力で興味を向けるきっかけ作りや自分事化する役割を担い、専門家としての役割は自治体や企業、教育機関などにサポートいただければと思っています。

スポーツは社会に対して大きな影響力があるので、シャレン!社会連携で環境問題に取り組んでいく輪を広げる役割も担っていきたいです。

静岡市はアジアでも有数のSDGs先進地域で、クラブがSDGs ACTIONに積極的に取り組めているのも静岡市の後押しがもらえていることが大きいです。

静岡市スポーツ交流課 栗田さん:

静岡市としてもそういった考えを持つクラブが傍らにいてくれることはとても心強いです。

以前、エスプラスには元選手で現広報担当の高木純平さんが関わってくれていたのですが、高木さんも静岡の地域愛を高める取り組みについても率先して企画したり、当時の職員と一緒にどうブラッシュアップしていくか考えたりしてくれました。エスパルスの皆さんが地域の課題を自分事化して、私たちと共に向き合い企画を考案してくれています。


KPMGジャパン 土屋さん:

エスパルスはなぜそこまで地域貢献を大切にするのでしょうか?


エスパルス 鈴木:

オリジナル10唯一の市民クラブだというクラブ精神も宿っていますし、基本理念のすべての項目にも「地域」という言葉が含まれています。Jリーグ百年構想の中で、これまで30年かけて様々な方が静岡市や地元企業、地域の皆様との関係を育み、活動を続けてきました。ホームゲームは年間20数試合ですが、その日は地域の皆様に全力で応援いただいています。その分、試合のない日はクラブが地域を応援し地域貢献する。クラブは地域の一員なので、これからもスポーツの力で地域課題解決にチャレンジしていきたいと考えています。

>>>第3回に続く

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