新加入選手をクローズアップしたロングインタビュー。第1弾は、ソウルイーランドFCから完全移籍で加入した小塚和季。始動直後の練習で「緩さを感じたから」と強いパスを出し、周りの選手のプレー基準を高めることにさっそく貢献した。豊富な経験を生かしながら、自分らしくチームを牽引していく。
2月7日公開/取材・文=平柳麻衣
プレーの基準を上げ、究極の個を目指して
――まずは加入してからのエスパルスの印象を聞かせてください。
「チームの雰囲気は良いですし、能力の高い選手が多いなというのが第一印象です。ただ今季はJ2からJ1にカテゴリーが上がるので、良い選手が揃っていても『自分たち、どうなるのかな』という不安は付きもの。僕は過去にも2度そういう経験があって、山口がJ3に上がった時と、大分がJ1に上がった時。そこで大事なのはどれだけ自信を持ってプレーできるか。やっぱりメンタルって大事で、エスパルスも優勝して昇格を手にしたことに自信を持っていいと思いますし、“勝者のメンタリティ”がしっかり植え付けられてるはずだから、自分たちを信じて、その力を発揮できれば結果はついてくると思います」
――始動してからの練習の中で、小塚選手のパススピードに他の選手たちが驚いていましたね。
「まあまあ。何てことないことですけど、やっぱりそういうところの基準が上がれば、他のプレーの基準も上がっていくと思うので。実際、始動して数日の練習でも目に見えて変わったと思うし、監督もそう言っていました。『止める・蹴る』の部分や、いかに味方がプレーしやすいパスを出せるかを意識しながら、楽しんでプレーできればいいと思います」
――移籍加入するにあたって、エスパルスのサッカーにどんなイメージを抱いて、自分はどうフィットできそうだと考えましたか。
「やっぱりエスパルスは個人の能力を監督が引き出す、そんなサッカーだと思っているので、その中に自分の色を入れて、また違う色のサッカーにできたらいいなと。ソリさん(反町康治GM)からは、長短のパスや自分でゴールを決められるところを評価しているという話をしていただきました。あとは、自分ではまだまだ若いと思っているので全然実感がないんですけど、エスパルスの中では6番目に年齢が上の方なので、チームを引っ張っていくことも意識していきたいなと思っています」
――これまでの経験を踏まえて、サッカーにおける「自由度」と「チームの決め事」のバランスの理想はありますか。
「まずは監督の言うことを実現するのがチームスポーツだと思っているので、それが全てだと思いますけど、全部が全部それだと相手にも対策されるだろうし、どこかで行き詰まる部分があると思います。自分の能力を一人ひとりが最大限出して、チームの部分はプラスアルファ。秋葉監督のミーティングを聞いていると、やはり選手個人にフォーカスして求める部分が多いと感じます。もちろん監督によって選手への求め方は違うもので、ポジショニングなどを重視する監督もいますが、秋葉監督の場合は、選手を信頼しているからこそ、そういう采配ができるんだろうなと思います」
――秋葉監督は、チーム力を高めるためには個の力を上げる必要があると常々言っています。
「僕も同意ですね。結局は個で一対一を剥がせる能力だったり、キープ力、ボール奪取能力など、個の能力が強ければ強いほどチームは強くなると思うので。ただ、個の力だけで勝てるほどJ1は甘くないので、ピッチの中の肌感覚を大事にしながら、臨機応変にやっていけたらと思います」
――これまでのキャリアを振り返った時、秋葉サッカーに通じそうだと思う経験はありますか。
「うーん……どちらかというと組織的なサッカーを好む監督の下での経験のほうが多いかもしれないですね。上野展裕さん、吉田達磨さん、片野坂知宏さん……でも、オニさん(鬼木達)はどちらかといえば個を重視してたかな。当時の川崎Fには一人で何でもできてしまう選手が揃っていたし、まさに究極の個。タイトルも獲っていたし、あれがエスパルスが目指す形の一つとも言えるんじゃないかなとは思います」
強いエスパルスを取り戻したい
――今の小塚選手にとって、原点と言えるような出来事は何かありますか。
「何だろう……年々いろいろな形に変化しているとは思いますけど……“強い”イメージがずっとなくて、“上手いだけ”って言われ続けて来たんですよね。個人でボールを奪い切る力だったり、突破する力などがついてきたのは、川崎Fに行ってからだと思います。移籍した当初はだいぶ戸惑いました。外から見ていると少しゆったりしてるというか、ずっとパスをトントン繋いでいるイメージだったんですけど、中に入るととにかくインテンシティが高いんですよ。距離感もそれまでに経験してきたチームとは違ったし、練習がきつすぎて、慣れるまで苦労しましたね。結局、試合にはなかなか絡めなかったですけど、日々のサッカーに対する姿勢とか、そういう部分では充実した時間を過ごすことができました」
――その後、韓国で約1年半プレーして、このタイミングで日本に戻ってこようと思った理由は?
「正直、僕が韓国で試合に出ていたとしても、日本ではなかなか情報を耳にしないだろうし、最後はK2(韓国2部リーグ)でやっていたので、次のチームを探すのは厳しいだろうなと思っていました。そんな中、エスパルスが一番早く声を掛けてくれたので、僕からしたら“拾ってもらった”という感覚です」
――韓国ではどんな経験を積めたと実感していますか。
「K1のチームだったらACL(AFCチャンピオンズリーグ)でJクラブと対戦しているところを観たことがある人も多いと思いますけど、レベルで言ったら日本との差はそんなにないかなと思います。でも、やっているサッカー自体がもう丸っきり違う。スピードやパワーの部分はやはりJリーグにはないものがありますね」
――そういった部分の経験を求めて韓国に行ったのですか。
「韓国に移籍した理由としては、一つは川崎Fで2年半やってきたことを生かせる環境だなと思ったこと。もう一つは、試合に出たくてうずうずしている自分がいたこと。その両方があったので、韓国ではのびのびプレーできて、良い経験になったなと思います。ピッチ外でも学びの多い期間でした。例えば上下関係なんかも日本と韓国では全然違うんですよ。練習中、若い選手が水を持って先輩に差し出したり、ご飯も先輩が食べ終わるまで食べないとか。僕に対してはそこまで求められなかったですけど、日本を出て、日本では感じられないことを感じて、人としてタフになれた気がします。言葉が通じなくても何とかなるな、とか」
――ここまでのお話を聞いて、選手としても人としてもいろいろな経験を積んで、良いタイミングでエスパルスに来てくれたんだなという印象を受けました。
「僕としてもまだまだやれると思っているし、ベテランと言われると『そうじゃないだろう』と思うところがあります。まだまだ得るものもあるだろうし、挑戦していきたい。エスパルスとしてもJ2からJ1に上がって、今季はまず10位以内というチーム目標に向かって挑戦していく立場だと思うので、チームとともに成長していきたいですね」
――今季に限らず、エスパルスで成し遂げたい目標はありますか。
「それはもう優勝です。J1で優勝したいです。やっぱりあの必勝祈願(サンバ隊の先導パレード)は衝撃を受けましたし、このファン・サポーターのためにも頑張ろうって思わずにはいられなかったですから。こんなにサポーターに愛されて、地域と身近にあるクラブってなかなかないと思います。それは街を歩いていても感じることで、どこに行ってもエスパルスの旗やタオル、ユニフォームがあったり、選手の顔が知られていたり。そういう応援してくれる人たちのためにも、また強いエスパルスを取り戻したいと素直に思いました」
――新加入なのに“取り戻したい”という感覚なのですね。
「たぶん僕が小学生ぐらいの時だったと思いますけど、三都主(アレサンドロ)さんや市川(大祐)さんがいて、すごく強かったですよね。マスコットも印象的だったし……なんか年代がバレそうで嫌だなぁ(笑)。でも、僕の中には強かった頃のエスパルスの印象があるので、“取り戻す”と言いました」
――個人としての目標はありますか。
「ベストイレブンに入ってみたいです。それこそ去年、川崎Fで仲が良かった知念(慶)が選ばれたので。しかも“ボランチとして”ですよ。いいなぁと思うと同時に、選手の成長って無限大だなと思いましたね。本当に誰が選ばれるか分からないし、1年をとおして活躍すればチャンスはあるということ。ただ、やっぱりまずはチームの勝利に貢献することが一番評価されると思うので、自分の良さも出しながらチームの勝利のために戦いたいと思います。今年のエスパルスは若い選手が多い分、伸びしろもたくさんありますし、楽しみですね」
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始動当初、「一番プレーしたいのはボランチ」と述べていた小塚は、枝村匠馬、竹内涼、兵働昭弘といったエスパルスOBの名前を挙げながら、「うーん……自分はゲームを落ち着かせてというよりも、もう少し自分がやりたいようにやるかもしれないですね」とエスパルスでのプレー像をイメージした。
実際、ここまでの練習やトレーニングマッチでは、トップ下や前線での起用にも応えながら、得点に絡むプレーを次々に繰り出している。“自分の色”を出しながら、周りの選手と「同じ絵を描ける瞬間」こそが、小塚にとってはサッカーの醍醐味であり、エスパルスの新たな強みになる。
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