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~KPMGジャパンと考える『S-PULSE SDGs ACTION』対談企画~ 第1回「サッカークラブにとってSDGsってどんな関係があるのですか?」

Jリーグ 社会連携部 鈴木 順氏  ×  エスパルス 代表取締役社長 山室 晋也

                 エスパルスSDGs事務局長 深澤 陽介

(聞き手:KPMGジャパン 土屋 光輝氏)


2019年から清水エスパルスが取り組んでいる『S-PULSE SDGs ACTION』について、改めてその活動をより多くの方々に知ってもらうため、エスパルスのSDGs活動やクラブが地域や社会へもたらす価値の可視化に現在一緒に取り組んでいるKPMGジャパンの土屋さんとともに、以下の3回に分けて関係者を交えながら対談を行います。なお、KPMGジャパンの土屋さんには、日頃よりクラブのSDGs ACTIONへ的確なアドバイスをして頂き感謝しております。


第1回:「サッカークラブにとってSDGsって何か関係があるのですか?」

第2回「SDGsに取り組むために、クラブはホームタウンとどう連携しているのですか?」

第3回:「エスパルスはホームタウンや社会にどんな価値を創出しようとしているのですか?」


本日は記念すべき第1回として、Jリーグ社会連携部から鈴木順さんをお招きして、エスパルス代表取締役社長の山室晋也、SDGs事務局長の深澤陽介と「サッカークラブにとってSDGsってどんな関係があるのですか?」をテーマに対談させて頂きましたので、その模様をお伝えします。

~今、スポーツに何が求められているのか~

KPMGジャパン 土屋さん:

サッカー界の話に入る前にまずは世の中の流れについてお話させてください。現在、世界では気候変動問題や新型コロナ感染症問題、ロシアのウクライナ侵攻など多くの社会問題があり、不安定な社会情勢下にあるのは周知の事実です。

そのような中、2015年に国連からSDGs*1が掲げられ、今では多くの人びとが一度は目にしたり、耳にしたりしているかと思いますが、企業でも、最近は自社の売上や利益を伸ばすことよりも、社会の一員として社会課題の解決に共に取り組まないと自分たちのビジネスも成り立たないと考え、SDGsに取り組む企業が多くなっています。

ただ、一企業だけではなかなか大きな取り組みにはできなかったり、内外に向けて取り組みを浸透させることができなかったりして悩んでいる企業は多く、スポーツが持つ「情報発信力」「ハブ機能」「エンターテインメント性(楽しさ)」といった強みを生かした取り組みが企業から期待されています。

*1 SDGs:Sustainable Development Goalsとは、「2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された『持続可能な開発のための2030アジェンダ』に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成」

(外務省:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.htmlより抜粋)

~Jリーグが果たす役割とは~

KPMGジャパン 土屋さん:

Jリーグではそのような期待に対してこれまでどんなことをやってきたのでしょうか?


Jリーグ 鈴木さん:

スポーツが持つ強みについては、まさに土屋さんのおっしゃる通りですが、もっと具体的に言うと「意識変容や行動変容をおこさせる力」や「人びとをつなぐ力」の価値が大きいですね。

そういった価値を最大限発揮しようと2017年には、「地域を元気に豊かにしていきたい」という考えの下、54クラブ全体で年間延べ約2万回ものホームタウン活動を実施していました。ただ、スゴく良いことをやっているのに、サッカー界以外ではあまり知られていませんでした。

その理由として、クラブが企業や自治体、商店街など1対1の関係性での活動が多く、繋がりが直線的で循環していないことが多かったため、関係当事者しか知らない活動となっていたと考えています。

そこで、2018年からJリーグが推進するシャレン!活動*2では2者間の交換モデルから、共通のテーマ・課題に対し3者以上の協働で取り組む、共創モデルを目指しています。


下図のように繋がりを循環する曲線にして、「クラブが●●へ」ではなく、「みんなで」とし、関わるステークホルダーで共通のテーマ・課題を見出して、それに一緒に取り組むことでより多くの仲間を増やし、クラブが持っている価値をもっともっと活用してもらおうと考えました。



*2 シャレン!活動:社会課題や共通のテーマ (教育、ダイバーシティ、まちづくり、健康、世代間交流など ) に、地域の人・企業や団体(営利・非営利問わず)・自治体・学校などとJリーグ・Jクラブが連携して、取り組む活動

KPMGジャパン 土屋さん:

シャレン!活動はもう5年目になりますが、だいぶ浸透してきましたよね。特に「シャレン!」という言葉にインパクトがあります。


Jリーグ 鈴木さん:

従来のホームタウン活動を一旦整理し、それが地域の課題解決に向かっているか、三者以上との協働になっているかを整理しました。「シャレン!」という言葉を聞いて「?」と思う人は多いと思いますが、それもフックとなって、「なに、それ?」と興味を持っていただく方も多いと思っています。

あと、新型コロナ感染症の影響も大きかったですね。サッカーができない環境になり、「自分たちにクラブにサッカー以外の価値って何があるんだっけ?」ということを多くのクラブスタッフや、選手が考えたこともシャレン!活動が広がった一つの要因だったかと思います。「 ONE SHIZUOKA PROJECT スポーツの力で静岡をひとつに (https://oneshizuokaproject.jp/)」のように、選手たちも主体的にシャレン!活動に取り組むようになりました。


KPMGジャパン 土屋さん:

Jリーグ全クラブのシャレン!活動の中から、特に社会に幅広く共有したい活動を表彰する「シャレン!アウォーズ」も浸透に一役買っているのではないでしょうか。


Jリーグ 鈴木さん:

そうですね。シャレン!アウォーズでは、「横展開しやすい」とか「共感しやすい」、「メディアに取り上げられやすい」などが選考上の重要なポイントになっています。「すぐにできる」、「イメージしやすい」、「分かりやすい」活動は共感が得られやすく、仲間を集めやすいですし、「他クラブへの横展開がしやすい活動なので、真似して欲しくてこの活動をエントリーした」といったあるクラブ担当者の言葉もシャレン!の趣旨が浸透してきているなあと感じて嬉しかったですね。


KPMGジャパン 土屋さん:

SDGsの観点からも、シャレン!アウォーズのエントリー活動https://www.jleague.jp/sharen/awards2022/)は全て何らかのSDGsの目標達成にも繋がっていますね。


Jリーグ 鈴木さん:

目の前の困っている人が手を差し伸べて、1人でも多くの人をハッピーにしたいというのがシャレン!活動ですし、「笑顔溢れる豊かな地域社会」を作ることをビジョンとしているので、SDGsのゴール達成を目指して活動しているわけではないですが、結果的にシャレン!活動のほとんどがSDGsの何らかのゴールを満たしています。

ただ、クラブだけが何かをするのではなく、地域の多くの方が自分事化して考えていく必要があります。そういった意味では、SDGsのゴールを達成しよう!という前に、自分の身近な地域ではどんな課題があるのか、身近な人は何で悩んでいるのかというように、手触り感のあるところから考えて、徐々にその解像度をあげていくことが大事だと思います。


~清水エスパルスが果たす役割とは~

KPMGジャパン 土屋さん:

ここからはエスパルスの話に移りますが、クラブは地域でどのような役割を担うことを目指しているのでしょうか?


エスパルス 山室:

エスパルスは地方都市にあるオリジナル10唯一の市民クラブとして、地域との繋がりはクラブの原点です。そのため、サッカーを愛して地域スポーツ文化の発展に寄与すること、さらには次世代に対してサッカーが快適にできる環境を残すことが大きな責務と考えています。

そのためには、当然、一流の強いサッカークラブになることを目指していますが、一方でサスティナブルな社会を実現するための地域貢献活動においてもグローバルスタンダードをクラブの標準としています。

したがって、試合興行とシャレン!活動は両輪であり、その中でも『SDGs ACTION』は他クラブと差別化しながらビジネスにしっかり繋げていくことが大切です。


KPMGジャパン 土屋さん:

『SDGs ACTION』をビジネスに繋げるとはどういった意味でしょうか?


エスパルス 山室:

『SDGs ACTION』の中で、例えば、エコグッズを再生可能な原材料で製作するとなるとものすごくコストが高くなってしまうことがありますが、これをサポーターに転嫁することはできませんし、クラブ内の人的リソースが限られている中でこういった活動を続けていくには、やはり費用対効果を考えていかざるを得ません。

『SDGs ACTION』をスポット、スポットの活動として考えていくのではなく、クラブとしてもサスティナブルな取り組みとしていかないと本当の意味でのSDGsとは言えないのではないかと思っています。

ですので、エスパルスのSDGs事務局は、単なる一過性の組織ではなく、ホームタウン営業部、広報部、企画部、法人営業部、教育事業部の5事業部が連携した部門横断的な組織ですし、その中のSDGs事務局長にはカーボンニュートラル推進プロジェクトのリーダーとして社内の10部署を取り纏める役割も担ってもらっています。


エスパルス 深澤:

実は、私はエスパルスのホームタウン営業部長と法人営業部長も兼務しているのですが、クラブを通じた広告露出だけで企業との関係性をつくることはなかなか難しくなっている中で、SDGsがビジネストレンドになっていることを踏まえると、SDGsに対して何をやったら良いか分からないと困っている企業にとって『SDGs ACTION』に取り組んでいるエスパルスと何か一緒に取り組むことで実現できることがあるという切り口は、企業との新たな関係性をつくることにも繋がります。

そこで、最近は企業におけるSDGs活用による4つのメリット「①企業イメージの向上 ②社会課題への対応 ③生存戦略 ④新たな事業機会の創出」など企業の非財務価値の向上にも繋がる提案でアプローチしています。


エスパルス 山室:

SDGsに対する世の中の認知率が上がり、企業の関心も高まってきている昨今、サッカーには興味がなくてもSDGsに興味がある企業からの支援が増え、そこからエスパルスのファンになって支援を継続してもらうという新しい流れができつつあります。

そういった意味でも、『SDGs ACTION』をやって良かったというか、むしろやっていなかったことを考えるとゾッとする、やらない方がリスクとさえ思います。『SDGs ACTION』は、今後もクラブのベーシックな活動として取り組んでいかなければいけないものになっています。


~「SDGs ACTION」の今後の展望~

KPMGジャパン 土屋さん:

なるほど、今やエスパルスにとって『SDGs ACTION』は無くてはならない非常に大切な活動なのですね。では、『SDGs ACTION』の今後の展望を教えてください。


エスパルス 山室:

『SDGs ACTION』では、エスパルスとしてSDGsに積極的に取り組んでいく姿勢の表明として、2019年にJリーグクラブで初めて優先的に取り組むSDGsならびにロゴ・キャッチフレーズを策定し、「エスパルスエコチャレンジhttps://www.s-pulse.co.jp/clubs/carbonneutral)」などの活動に取り組んできました。今後の「目指すべき姿」、「目標」、「成果目標」は下図のとおりですが、クラブは強みである情報発信力やハブ機能を生かして地域・社会へ活動の輪を広げていくことはもちろん、企業や個人みんながお互いの強みを出し合ってしっかりとした活動成果を出していくことも同時に目指しています。


エスパルス 深澤:

エコチャレンジについては、活動初期より静岡県地球温暖化防止活動推進センターにアドバイザーとして参画いただいております。そのような中、今回静岡大学とも連携し、「ゼロカーボン・プロジェクト(https://www.s-pulse.co.jp/news/detail/49798)

」を実施・推進していくこととなりました。同プロジェクトでは、エスパルスの活動に関連する温室効果ガス排出量を可視化するとともに、今後ゼロカーボンを推進していくロードマップを提示していきます。その進捗状況を「カーボンニュートラル特設サイト」で公表し、静岡大学からはこのプロセス全体について、専門的なアドバイスや知見の提供をして頂きます。産官学連携によるこのような事業はJ リーグクラブとしては初めての取り組みとなります。



Jリーグ 鈴木さん:

素晴らしいですね!「CO2 を含む温室効果ガス削減」にはリーグとしても取り組まないといけないと考えています。ただ、アクションをする前に今がどうなのかを理解するためにアセスメントがまずは必要であって、その点ではエスパルスはリーグから見てもかなり先をいっているなと感じます。


~非財務価値の重要性~

KPMGジャパン 土屋さん:

そうですね。企業においても、最近は財務価値では測れない地域や社会にもたらされる成果や価値(いわゆる「非財務価値」)がどれだけ高いのかが注目されてきています。温室効果ガス排出量などもそのうちの一つですが、『SDGs ACTION』がもたらす非財務価値が高ければ、クラブだけでなく協働している企業の非財務価値の向上にも繋がりますし、地域課題の解決が地域全体の価値の向上にも繋がります。そうすると、企業や自治体からクラブへの支援がさらに増し、正の循環(スパイラル)が創出されるのではないでしょうか。


Jリーグ 鈴木さん:

本当にその通りだと思います。こういった活動について、「なぜ儲からない活動をやるの?」「その活動で集客に繋がるの?」という声が上がることもありますが、それは非財務価値を理解していないと同時に、しっかりと示せていないことに起因しているのではないかと考えます。

ラ・リーガ(スペインリーグ)では2023年から非財務価値の開示が義務化され、Jリーグでも義務化するかは分かりませんが、非財務価値を積極的に情報発信することで、それがクラブの財務価値を高めることにも繋がることをもっと理解してもらう必要があると思います。

シャレン!活動はお金をもらうことが目的ではないですが、きちんとその活動がもたらす価値を示すことで、それに見合った企業からの支援を得ていくことが重要だと思いますし、そういった循環をつくっていきたいですね。

例えばゴール裏の看板の価格には定価があり、それ以上に売り上げは得られませんが、シャレン!活動は、その活動に価値を見出していただいた企業からは、もっと大きな売り上げになる可能性は多分にあるのではないかと…。現実にはまだそんな企業は現れてはいませんが、今後はスポーツがもたらす非財務価値への理解をもっと深めてもらうために、静岡大学との連携によるエスパルスの「ゼロカーボン・プロジェクト」のように非財務価値を数値等で示していくことにもチャレンジしていきたいと思います。



(出典:株式会社日本政策投資銀行発行、株式会社Eraおよび有限責任あずさ監査法人協力の「スポーツの価値算定モデル調査~地域社会の持続可能な成長をもたらす、スポーツチームの価値の可視化~」)より


KPMGジャパン 土屋さん:

最近は多くの企業が統合報告書*3を作成していますが、企業の財務価値と非財務価値を示しながら中長期の価値創造ストーリーをロジカルに説明していくことは不確実性の高い今だからこそ非常に重要です。リーグやクラブでもサポーターやパートナー企業、自治体との対話ツールとして統合報告書の作成を検討してみてはいかがでしょうか。

*3 統合報告書:企業の売上や資産など法的に開示が定められた財務情報に加え、企業統治や社会的責任(CSR)、知的財産などの非財務情報をまとめたものである。欧米を中心とした海外機関投資家が投資の際、企業の社会的責任を重要視し始めたことを契機に、海外の企業で財務情報と非財務情報をまとめて発行するようになった。


Jリーグ 鈴木さん:

それはいいですね!人が何に共感するか、それはその組織が持っているストーリーだと思うんですよね。統合報告書はステークホルダーとの対話ツールになりますし、勝った負けただけではないJリーグの価値を多くの方に理解していただけると思っています。

Jリーグは将来、世界5大リーグに伍するリーグになりたいとフットボール領域では言っていますが、シャレン!活動は欧州ではどこもやっていない活動ですし、世界でも類を見ない非常にユニークな活動ですので、その領域では世界トップリーグと言っても過言ではないと思います。

そう考えると、サッカーの競技力を上げていくと同時に、非財務価値を上げてしっかりアピールすることも投資・支援対象となり得るのではないかと思います。

そんな中、オリジナルのロゴなどを作ってSDGsへ積極的に取り組んでいるクラブも最近増えてきていますが、エスパルスの『SDGs ACTION』はその先駆けだったのではないでしょうか。

エスパルスは良い意味でリーグに頼らずに、クラブ自らが考え、地域に合った活動をしっかり取り組もうとしている姿勢が素晴らしいです。そんなエスパルスにはJクラブを率先し、きっとこれからも素晴らしい活動をしていってくれるんだろうと今後も期待しています!


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