日々の競争、陰での努力、悩み、葛藤……選手一人ひとりの物語を追ったコンテンツ【STORY】。今回は宇野禅斗選手のテキスト版です。
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10月18日配信/取材・文=平柳麻衣
新しい世界に飛び込むとき、宇野禅斗はあることを判断基準にしている。それは「怖い思い」をしたところに行くこと。青森山田中学校に進学したときもそうだった。
「最初、練習参加に行ったとき、先輩たちがお互いに激しい口調で言い合っていたんです。その迫力に圧倒されて、怖くてビビったのと同時に、『なんか楽しそうだな』と思って」
昨季、町田の一員としてエスパルスと対戦したときの印象も「怖い」だった。
「今でこそみんな優しくて、可愛がってくれて、良い先輩たちばかりなんですけど(笑)、対戦相手として見たときのエスパルスはすごく怖かった。俺が抱いたイメージですけど、やっぱり“オリジナル10”らしいというか、クラブのプライドがすごく高そうに感じたし、選手個人個人のプロ意識も高くて、試合中も選手同士がめっちゃ言い合ってたんです。それだけ本気でぶつかり合えるのって良いことだなと思いました」
中学校の練習参加に付き添ってくれた親には、のちに「目がキラキラしてて、すぐに(進路を)決めてたよ」と言われたという。今夏エスパルスへの加入を決断したときの宇野の目もきっと、キラキラと希望に満ちていたことだろう。
エスパルスでは恒例のことであるが、シーズン途中の加入選手が一人で記者会見に臨むことを告げられたときには、「俺一人のために記者会見をやるの? メディアの人たちがわざわざ来てくれるの? 本当に?」と驚きを隠せず、こっそりとクラブ広報に「どんな服装で参加すればいいか」を確認したという。それが、エスパルスでの刺激的な日々の始まりだった。
「0ロスト」への強いこだわりを持って
プロ3年目、20歳で初めて移籍を経験し、当初はクラブや街の違いに驚いてばかりの宇野だったが、いまや三保クラブハウスにもすっかり慣れ、充実した毎日を過ごしている。
「慣れたらずっとクラブハウスにいる方かもしれないです。別に誰とも話さなくても全然気にならないタイプだけど、ここではいろんな先輩たちが話しかけてくれるので楽しいし、みんな練習前後にどんなことをしているのか見るだけでも参考になることがたくさんあります。
俺自身もケガを経験してるので身体のケアはしっかりやりたいと思っていて、練習が終わってシャワーを浴び、昼飯を食べて少し休んだら、まずは一人でお風呂に入る。寮のお風呂はユースの選手たちも使うから、あまり長く入ってると気を使わせてしまうかなと思うので、その分、ここで満喫させてもらっています(笑)。その後はストレッチしながらサッカーの映像を見たり、先輩たちと話したり。プロ1年目のときの先輩に『なるべく若手で固まらず、先輩たちの中に飛び込んでいったほうが成長できるよ』と教えてもらったことを、今でも心に留めています」
意識の高さは試合に関しても表れている。第27節甲府戦の試合後、3−0で勝利したにもかかわらず、宇野は一人、悔しさを滲ませていた。
「ロストが気になっちゃって。俺がボランチとして自分に一番求めているのは、ロストしないこと。1試合の中で、たとえ1点決めてもロストが5回あったらチャラにはならない。だったら、自分は点を取らなくてもいいから、0ロストにこだわりたい。甲府戦に関しては、プレーの選択がチャレンジなのかギャンブルなのかの判断が上手くできてなかったし、自分がそういうプレーをしていたらチームが崩れることにもつながってしまう。ボランチはそれだけ責任のあるポジションだと思っているので、自分自身に納得できなかったですね」
学生時代から培ってきた勝利への執着が、1プレー1プレーにこだわる宇野の原動力となっている。
「プロになってまでサッカーを続けている選手って、全員が根本には『絶対に負けたくない』という気持ちを持ってると思うんです。だけど、勝つこと以前にやりたいチームのスタイルだったり、個々のウイークポイントがあったりするから、ブレが出てくる。試合の終盤では疲労も影響してくると思います。そこで最後まで踏ん張りきれるか、細部まで突き詰められるかは、もうメンタルの問題なのかなと。俺はやっぱり、自分のチームが失点するのも負けるのも嫌だから、そこは徹底的にこだわりたい。
例えばチームが目指すスタイルを表現するためにどこかで崩れてしまう部分が出るなら、そこを俺が食い止めればいい。『キーパーが止めれば』『センターバックが身体を張れば』の前に、『ボランチで奪えれば』が加われば、チームとしてのフィルターがもう一枚増えるわけじゃないですか。だから、例えば仙台戦(8月3日)の失点も、『俺のスライディングがボールに当たっていれば防げたな』と自分の責任として捉えているし、とにかく枠に飛んでくるシュートを減らすことで失点は防げると思っています」
「俺って前に行きたいように見えてるんだ」
ただ、エスパルスに来たことでプレースタイルや考えに変化が生まれた部分もある。それは、中村亮太朗に言われた、ある一言がきっかけだった。
「試合をしている時、亮太朗くんから『前に行きたいでしょ?』って言われたんですよ。今までの俺のプレースタイルを見て、そんなことを言ってくる人なんていなかったから、『あ、俺って前に行きたいように見えてるんだ』って自分でも驚きました」
加入直後のリーグ戦で2試合連続ゴールを決めていることから、攻撃面の印象も強いかもしれないが、宇野自身は「エスパルスが自分をそうさせてくれている」と認識している。
「言われてみれば、小学生ぐらいの頃まではロナウジーニョに憧れてブラジルのサッカーをめっちゃ見ていたし、ドリブルを仕掛けて、点を取って……っていう攻撃が大好きな選手だったんですよね。でも、青森山田に入って守備を学んで、ボールを奪う喜びや駆け引きの楽しさを自分の中で見出して、守備をストロングポイントとしてプロの世界に入りました。
だけどエスパルスって、俺が前に行っても大丈夫っていう信頼感が選手間であるんですよ。それに『チャレンジした上でのミスだったら、みんなで切り替えて奪い返せばいい』っていう考えがチームに浸透しているから、チャレンジすることをどんどん歓迎してくれる。あとは、(乾)貴士くんをはじめボールが収まるところがあったり、連動して動いてくれる選手たちがいるから、縦に付けた先のプレーをイメージしやすいというのも、攻撃的なプレーを選択できる要因になっていると思います」
それにはボランチでコンビを組むことが多い中村や宮本航汰が「自分のプレーを後押しするようなサポートをしてくれることが大きい」と先輩たちの気配りに感謝する。2人に限らず、新しい環境に飛び込んだことで出会った仲間から刺激を受ける日々が、とにかく「楽しくて仕方ない」のだという。
「亮太朗くんだったらバランスを取りながら下でつなぐのが上手いし、航汰くんは前に出ていくタイミングが上手くて高確率でボールに触るので、2人ともすごく勉強になります。それに亮太朗くんのヘディングの技術も高いなと思うし、航汰くんは両足を使ってテンポ良くボールを捌けるのがすごく良くて……あっ! それで言ったら、この前の紅白戦では(成岡)輝瑠くんとボランチを組んで、めっちゃ楽しかったんですよ! エスパルスは全員クオリティが高いしタイプが違うから、誰と出ても発見があるし、その人の考え方を知るのも楽しいし、俺も負けていられない、まだまだ成長したいっていう気持ちがどんどん強くなっていきますね」
「ピッチから見るアイスタのスタンドは絶景」
成長への意欲が尽きない宇野には、「ブンデスリーガでプレーしたい」という夢がある。
「目指すプレーヤー像は、ずっと変わらず『攻守コンプリート』です。今の憧れは、遠藤航選手。でも、欲を言えばというか、欲張らなきゃいけないと思うんですけど、これから先に出てくる選手たちは今、日本代表や海外で活躍している選手たちを越えていかなければいけない。例えば、遠藤航選手よりもボールを奪えて、なおかつ守田英正選手よりも上手いボランチ、みたいな。そういう選手になって海外に挑戦したいです。
それで言うと、エスパルスって日本だけど海外のクラブみたいなところがありますよね。だって、街やファン・サポーターのサッカーに対する熱がすごいじゃないですか。スタジアムの雰囲気もいいし、俺がスライディングで止めたときなんかも拍手が沸いたりして、やりがいがあるなと思いました。プレーが止まったとき、ふとスタンドを見てしまうことがあるんですけど、ピッチから見るアイスタのスタンドは絶景ですよ」
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エスパルスがJ1昇格に王手をかけた今、昨季町田で経験した昇格決定試合を振り返ってもらった。アウェイ熊本戦で、宇野はミドルシュートを叩き込み、勝利に大きく貢献している。
「やっぱり昇格が懸かった試合となると、どうしてもプレッシャーが掛かって難しくなるので、先制点を取りたいですね。自分も狙っていきたいですけど、このチームはみんなゴールへの意欲が高いし、要所要所で『チームのために』というプレーができる。そういう集団が同じ方向を向いたときのパワーは強いし、それが昇格や優勝を手にするために重要になってくるはずです」
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